26.人助け

文房具店から出て、隣の雑貨屋を覗くと、高田の母はレジに並んでいた。


会計をしているところを外から見ていると、向こうも気が付いたのか目が合い、お互いに手を振った。なので、わざわざ店の中には入らず、外で待っていた。


ボーッと、高田の母を見ていると、目の前を若い二人組の女性が通り過ぎた。

と思ったら、そのうちの一人のカバンと、向かいから歩いてきた男性の手がぶつかった。

その拍子に、女性のカバンのポケットから携帯電話が落ちた。

だが、男女はお互いペコペコと謝り合い、女性はそれに気が付かない。

そのまま、その場を去ろうとするので、真理は慌てて携帯電話を拾った。


すぐ立ち上がり、声を掛けようとしたが、人が多くて、落とした女性を見分けられず、キョロキョロと捜した。


やっと見つけると、急いで追いかけた。

だが、人が多い。

こういう時に限って、なぜか逆走に飲み込まれたかのように、みんながみんな自分に向かって歩いてくる。

懸命に人波を縫うように女性を追いかけたが、なんせ、両手に大荷物だ。

なかなか前に進まない。


結局、女性を見失ってしまった。


仕方がない。サービスセンターに届けるしかない。


(とりあえず、一度、おば様のところに戻ろう・・・)


真理は溜息を付きながら、もと来た道を急いで戻った。


例の雑貨屋に戻り、店を覗いたが、高田の母はいない。

周りを見渡しても、それらしい女性はいない。


(やばい、私の事探しているかも!)


真理は慌てて携帯電話で連絡を取ろうと、バッグの中に手を突っ込んだ。


「うそ?! 無い! 携帯が無い!」


真理は青くなった。

他人の携帯電話を拾っておいて、自分のは落としたのか?

いや、そんなことはない。

だって、今日は一度も携帯電話をバックから出してないし!


(あ、そうだ・・・。充電しっぱなしだ・・・)


電源がほぼ無くなっていたので、家を出る間際まで充電しようとしていたことを思い出した。


(うー、充電なんてしなきゃよかった・・・。モバイルバッテリーは入れっぱなしだったのに・・・)


どうしようか?

このまま、高田の母を探すか?

とりあえず、先に拾った携帯電話を届けるか?


「先に、届けなきゃ! この人だって困っちゃうものね」


そうだ、ちゃっちゃと届けてしまって、ゆっくり探そう。時間はある。


真理は、館内地図を頼りにサービスセンターへ向かった。





分かりづらい館内地図に苦戦しながら、何とかサービスセンターに辿り着き、無事に携帯電話を預けることが出来た。


ホッと一安心したが、問題はこれからだ。


どうやって、探そう。この広い森のようなショッピングモールの中を・・・。


そう思案に暮れていた時、隣ですすり泣く声が聞こえた。

ギョッとして振り向くと、小さい女の子が泣いていた。


「どうしたの? お嬢ちゃん・・・? もしかして・・・」


真理は屈んで女の子に尋ねた。


「ママ・・・、いないの・・・。どっか行っちゃった・・・」


「ああ、やっぱり・・・」


迷子だ。


真理は女の子の前にしっかりしゃがむと、頭を優しく撫でた。


「本当に、ママどっか行っちゃったの? ここら辺にいるんじゃない?」


女の子は首を振った。


「ずーっと向こうから来たの・・・。ママと思って一緒にきたら・・・、違う女の人だったの・・・」


(あ、これ本物だ。灯台下暗しじゃないやつだ・・・。本当にはぐれちゃったやつだ・・・)


真理は立ち上がると、出来るだけ左手に荷物を集め、右手を空けた。

そして、その手を女の子に差し出すと、


「迷子センターに行こうね。お姉ちゃんが連れて行ってあげる」


そう言って元気づけるように、にっこりと微笑んだ。


「・・・知らない人について行っちゃダメだって・・・、ママ言ってた・・・」


(うん、それについて行ったのあなただよね? それも自ら・・・)


その言葉を飲み込んで、もう一度、女の子の前にしゃがんで、顔を覗き込んだ。


「そうね。それは正しいわ! でも、迷子センターっていう所に行くと、ママが見つかるっていうすごいことが起こるのよ!」


「ほんと?」


「うん! ホントにすごい所なの!」


「じゃあ、行く・・・」


(うーん、何だろう、この罪悪感・・・)


人助けのはずなのに、口車に乗せて連れ出している自分に妙な違和感を覚えながら、真理は小さい女の子の手を引いて、迷子センターに向かった。

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