25.お買い物
トンカツ屋を出ると、モール内はますます人が多くなっていた。
「真理ちゃん、おばさんと一緒に雑貨屋さんと洋服屋さんを見て回りましょう!」
「はい!」
「お父さんと翔は好きに回ってて。後で待ち合わせね」
「え・・・?」
「じゃあね、父さん。俺、本屋にいるから」
「え? え? 父さん、もしかして、ぼっち?」
父親は仲良く二人で去っていく真理と母親と、一人スタスタと歩いて行く高田の二組をキョロキョロと見ると、慌てて息子の方を追いかけて行った。
「初めて来ましたけど、本当に大きなショッピングモールですね~。おば様はよく来るんですか?」
人混みだけではない、店酔いしそうなほど並んでいるショップを巡りながら、真理は高田の母親に尋ねた。
「そうなの。好きな雑貨屋さんがあってね。お父さんに車を出してもらってよく来るのよ。でも、そうなると、当たり前だけど、お父さんが一緒でしょ? ゆっくり見て回れないのよ」
「え? さっきみたいに『後で待ち合わせね』ってならないんですか?」
「二人きりの時はそうならないのよ~。もう、おばさんにピッタリくっついて離れないから、見づらくてしょうがないの。そのくせ、男の人ってすぐに飽きるでしょ? 『まだ終わらないの?』ってうるさくって」
「あるあるですね・・・」
「ふふ、今日は翔がいるから、お父さんはあの子に任せましょう」
高田の母親は悪戯っぽく笑うと、近くにある可愛らしい洋服屋に入って行った。
「こういうお店も、お父さんと一緒じゃ見て回れないでしょう? 若い女の子のお洋服って可愛くって見ていて楽しいわよね~」
「可愛いのがお好きなんですね」
「そうなの! 翔のお洋服なんて探していても、ちっとも楽しくないのよ。今日は真理ちゃんのお洋服探しましょうね!」
「え?」
真理は目を丸めた。
驚いている真理を尻目に、高田の母親は楽しそうに洋服を見繕っている。
可愛いスカートやブラウスを見つけると、真理の体に宛がい、可愛い可愛いと褒めちぎる。
実際は洋服が可愛いのだろうが、自分が褒められているような気になり、真理も浮かれまくり、気が付いたら、数店舗の紙袋を両手いっぱいにぶら提げていた。
それでも、まだ買おうとする高田の母を、
「おば様! もう充分です! ありがとうございます! 雑貨見ましょう! 雑貨!」
何とか制して、雑貨屋に引き込んだ。
そうして幾つかの雑貨屋を巡ると、やっと、母親の一番お気に入りの雑貨屋に辿り着いた。
母親は夢中で店内を物色し始めたが、可愛いものばかりで少々飽きが来ていた真理は、隣の文房具屋が気になりだした。
勝手に離れるのも心配なので、一言、母親に隣のショップにいる旨を伝え、文房具屋に行った。
文房具雑貨にも心躍るものがある。
書きもしないのに、美しい便せんや封筒には目を奪われるし、メッセージカードもポチ袋も欲しくなる。
可愛らしいノートなどは、実際にはもったいなくて使わないことが多いのに、つい手に取ってしまう。
今回も、数冊のノートと柄付きの付箋を購入しようと手に取った。
そして、レジに行こうとした時、ペンケースコーナーの前を通りかかった。
「あ、そうだ、ペンケース欲しかったんだ!」
いろいろ楽しく物色していると、見た目はシンプルでお洒落だが、ジッパーがいくつもある多機能のペンケースを見つけた。
「これいいじゃん! 可愛いし、便利そう!」
色もたくさんある。黄色、ピンク、水色、緑・・・。
真理は迷わずピンクを取った。
その時、隣にぶら下がっているネイビーが目に留まった。
(・・・男の子が使っても変じゃないよね、この色なら・・・)
真理はそっとそのネイビーも手に取った。
そして二つを並べた。
(色違いのお揃い・・・)
真理の心が高鳴った。
そのままペンケース二個とも持って、レジに並んだ。
そして店員に、
「このネイビーのペンケースだけ、プレゼント用に包んでください」
そう言って、持っていた商品を全部カウンターに置いた。
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