24.お出かけ2

「今日はみんなでお買い物に行きましょう!」


土曜日の朝、高田の母親の一言で、この日のスケジュールは決まった。

真理は特に予定もないので、喜んでお供することにした。


しかし、当然のごとく、


「俺は行かないから」


高田はにべもなく断ってくる。


(・・・良かった・・・)


真理は高田の選択に安堵した。

こっちだって一緒に行きたくない。

そうだ、そうだ、一人で留守番していてくれ。


そう思い、安心していたのに・・・。


車の後部座席には真理と高田の二人、仲良く並んで座っていた。

非常に不貞腐れた顔で、高田は窓の外を睨みつけている。


(なに言う事聞いてんの? 行かないって言ったじゃん! 自分の発言に責任持てや!)


そんな高田を、真理は苛つきながら睨みつけた。


「郊外の大型ショッピングモールに行くからね。ちょっと時間掛かるから寝ちゃっていいわよ~」


二人の険悪ムードなど一切お構いなしに、高田の母親はご機嫌に大音量で音楽を掛け始めた。


「ちょっと、母さん。音デカい。もっとボリューム下げて。うるさい」


高田は腹立たし気に母親に文句を言った。


「えー、いいじゃない、このくらい~」


母親は不貞腐れたように口を尖らしたが、


「うん、母さん。もうちょっと下げてくれないかな? これだと外からの音が聞こえないから。ほら、救急車のサイレンとか」


父親にやんわりと指摘され、渋々音量を下げた。

そして、許容される範囲までボリュームを落とすと、今度は一緒に大声で歌い始めた。


あまりのノリの良さに、真理は目を丸めて、高田の母親を見た。


チラリと父子を見ると、また始まったとばかりな呆れ顔だ。

それでも父親は少しばかり楽しそうな顔をしている。

しかし、高田にいたっては完全な呆れ顔だ。溜息を付くと、イヤホンを取出し、耳にはめると目を閉じてしまった。


後ろで素直に音楽―――というより、母親の独唱―――を聞いていた真理だが、数曲目に好きな曲が流れてきた。


「あ! めっちゃ好きです~! この曲~!」


真理は思わず後ろから助手席のシートにしがみ付いた。


「ホント? いいわよね~、この曲! 真理ちゃんも一緒に歌って!!」


一人だった歌声が二人になり、車内の音量はボリュームを下げる前より大きくなった。


「・・・マジでうるさい・・・」


高田は眉をひそめて母親と真理を睨むも、彼女たちは完全に二人の世界だ。

自分に酔いしれるように歌っている。

父も何も言えずにいる。


「はあ~」


高田は諦めて目を閉じた。





途中、渋滞にはまり、いつも以上に時間が掛かったようだが、車内カラオケのお陰で、ちっとも退屈せずに目的地のショッピングモールまで到着した。


ホッとした顔の父親とゲッソリとした顔の高田の後ろから、ご機嫌な母親と真理がついて行く。


「ふふふ、いっぱい歌って、お母さん、喉乾いちゃったわぁ」


「私も、喉カラカラです~!」


「ははは、そりゃあ、あんなに歌っていたらな~」


父親がにこやかに二人に振り返った。

さりげない嫌味もご機嫌な二人には通じない。


「・・・耳が潰れるかと思ったよ・・・」


ボソッと呟く高田の頭を父親が軽く小突いた。


土曜日のショッピングモール内は賑やかだ。

若者から年寄りまで、文字通り老若男女、たくさんの人で溢れている。


「それにしても混んでいるわね~。今日は何かイベントでもあるのかしら?」


母親は人混み酔いしそうなほどのモールの中をキョロキョロ見渡した。


「ちょっと早いけど、混まないうちにランチにしちゃいましょう! 喉も渇いたし。真理ちゃんは何食べたい?」


「え? 私、何でもいいです」


「そう? じゃあ、翔は?」


「俺もどうでもいい・・・」


「もうっ! じゃあ、お父さんは?」


「そうだな~、蕎麦がいいかな~♪」


「じゃあ、トンカツ屋さんにしましょう!  お母さん、ヒレカツ食べたいわ!」


「・・・」

「・・・」

「・・・じゃあ、聞くなって・・・」


突っ込む高田も、軽く肩を落とす父親も無視して、母はスタスタとトンカツ屋の暖簾をくぐって行った。

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