21.使えなくなった『もしものルート』

これは困った!


真理は自分の部屋のベッドの上で頭を抱えていた。


まさかのまさか!

高田と津田の仲が良くないとは!


いや、仲が良くないこと容易に想像できる。

全てにおいてトップオブトップの陽キャラの高田と、成績だけはトップクラスだが、その他は底辺に近い陰キャラの津田。

この二人が親しいとは思えない。


だが、どうやら、仲が良くない、親しくないなどという言葉では収まらないようだ。

高田の口ぶりからも、弁当を川田に託した津田の行動からも、二人は犬猿の仲のようではないか!


そうなると、折角開拓した、もしものための『津田ルート』は、もう使えない。


「困った・・・」


真理は呟いた。

もうこうなったら、この二か月の間、もしものことが起こらないように祈るしかない。

高田自身も、今日の事で思い知ったろうから、弁当を忘れることはないだろう。

そう、願わずにはいられない。


それにしても津田には申し訳ないことをした。

今になって、津田が弁当を受け取ることを躊躇した理由がよく分かった。


だが、まったく別世界にいるような二人が、どうして犬猿の仲になることがあるのだろう?

そもそも交流が無ければ、仲が悪くなる事もできない。


「もしかして、以前は仲が良かったのかな・・・?」


真理は首を傾げた。

しかし、もうそんなことはどうでもいい。

自分には関係ない。


とにかく、もう二度と高田絡みで特進科の棟に行くことがないように、祈るしかない。


真理は大きく溜息を付いた。





翌朝、駅から学校までの道のりを歩いていると、偶然にも津田の姿が目に入った。


(う・・・、津田君・・・、昨日はごめんなさい・・・)


途端に、真理の中でドバーッと罪悪感が沸いてきた。


ここは謝った方がいいのだろうか?

いや、そうしたら、津田が川田に託したことを知っているというこになる。

あくまで高田の母親と知り合いであって、高田本人とは親しくないと言っているのだから、結末の状況を知っているのは変だ。


ここは普通に一言お礼だけにした方が無難だ・・・。


そう思い、津田を目で追った。


津田の隣には当然のように一人の女子が歩いていた。

それは津田の彼女で、真理の友人だ。


津田と仲良く手を繋いで歩いている。


それを周りの生徒は羨望の眼差しで見つめている。

特に男子生徒・・・。


なぜなら、津田の彼女の神津都はこの学校のアイドル的存在だ。

可愛くて明るい彼女は男子生徒から圧倒的な支持を得ていた。


以前に梨沙子が言っていたマドンナランキングも上位だったはず。

つまり、花沢楓と並ぶ女子なのだ。


そんなマドンナを射止めたのが津田。


身長は都と大差ないのに、体重は2倍ほどありそうな体格で、彼女の横をポテポテと歩く姿は、誰が見てもお似合いとは言い難い。


10人に聞いたら10人とも「美女と野獣」と答えるだろう。


だが、二人と同じ中学校出身の真理は知っている。

都の方が津田に夢中で、ひたすら彼を追い回していたことを。


今二人が目の前で手を繋いでいる光景をみると、まるで親のように微笑ましく思ってしまう。


(ああ、そうだ。津田君にもお礼を言わないとだけど、都ちゃんにも、津田君を使ったことを報告しておかないと・・・。あとでヤキモチ焼かれても面倒だし・・・)


真理は、タタタっと都の隣に駆け寄った。


「おはよう! 都ちゃん!」


「あ、おはよう! 真理ちゃん!」


都は真理に向かってにっこり微笑んだ。

真理は都の肩越しに、津田を見た。


「津田君もおはよう!」


「お、お、おはよう。中井さん」


津田は明らかに動揺している。

きっと、人の良い津田のことだ。真理からの指令を完遂できなかったことを後ろめたく思っているのだろう。

真理は気が付かない振りをした。


「津田君、昨日はありがとう! 助かったわ!」


「え、え、えっと・・・、実は・・・」


「何? 何の事?」


動揺する津田の言葉を遮るように、都が割り込んだ。想定内の行動だ。


「あのね。実は昨日、津田君のクラスの人のお母様からお弁当渡すのを頼まれちゃって。でも、私、当の本人とはぜーんぜん面識無くって、無理言って津田君にお願いしちゃったの」


「そうなのね」


「うん」


「ふふ、さすが、和人君! 優しいのね!」


都は津田に振り向いて、微笑んだ。


「うん、津田君、優しい! ありがとね!」


真理も微笑みながら、津田に向かってグッと親指を立てた。


「う・・・、えっと・・・、それなんだけど・・・」


津田の顔がどんどん曇っていく。


これはまずい。

これ以上褒めると、人の良い津田は罪悪感から倒れてしまうだろう。


「じゃあね! またね、都ちゃん!」


「うん! バイバイ、真理ちゃん!」


真理は二人から逃げるように学校に向かって走り出した。


(津田君、悪いのは知らずに頼んだ私ですっ! しかも、あわよくば今後もお願いしようと思っておりました~! ごめんなさ~い!)


心の中でそう懺悔しながら。

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