22.高田の想い人

川田が花沢楓に好意を抱いている事—――あくまでも真理の感—――を知ってしまってから、真理は焦燥感に駆られるものの、積極的に川田に接触することを躊躇し始めた。


夜、一人部屋にいるときは、焦りの方が強く、


臆している暇などない。

女は度胸だ! さっさと清水の舞台から飛び降りるつもりで告白してしまえ!


と気合が入るのに、朝になり、学校に着いた途端、


まだ、大して親しくない。この状況下で告白したら確実に敗北する。

もう少し距離を詰めてからの方が、勝算があるのではないか?

とりあえず、花沢楓は高田を諦めてはいないらしいし、何も焦らなくても・・・。


と、ウジウジと自分に言い訳して二の足を踏んでしまう。


そんなことを繰り返し、この数日、川田を見かけても、勇気が出ずに話しかけられずにいた。


「真理ちゃん、そんなことじゃダメよ! 頑張って!」


奈菜は優しく応援してくれるが、


「いい加減、イライラするんだけど。まずは距離を詰めるところからって言っておいて、それすらも躊躇し始めてどうすんのよ」


梨沙子は容赦ない。呆れたように真理を見ている。


「奈菜の情報通り、花沢楓が高田翔を好きだとして、彼女から川田君に振り向かないとしてもよ? 真理の直感の通りだとしたら、川田君の方から花沢楓に告る可能性もあるんだから」


「う・・・」


「そうなったら、いつまでも振り向いてくれない高田翔なんかより、川田君を選ぶかもね」


「で、ですよね・・・」


真理は子犬のようにシュンとうな垂れて、溜息を付いた。

自分でも情けないと思う。


いけない、いけない! 自分から勝負を放棄してはダメだ!


真理はピシャっと自分の頬を叩いた。





気合を入れたというのに、ホームルームが長引いてしまい、帰りの出だしに後れを取ってしまった。


それでも、川田を捕まえようと特進科の下駄箱に急いだ。

そこに、真理のスマートフォンが震えた。

奈菜からのメッセージが入っていた。


『川田君発見。図書室に向かっている模様』


ナイス! 親友!


真理は180度方向転換し、図書室に向かった。

その途中、都を見つけた。

歩いている方向から、彼女も図書室に向かっているようだ。


「都ちゃん!」


真理は都に駆け寄った。


「あ、真理ちゃん!」


都はにっこりと微笑んで、真理を迎えた。


「都ちゃんも図書室に行くの?」


「うん! 今日は和人君のお当番の日だから」


都はご機嫌に頷いた。

津田は図書委員だ。健気な都は、津田が貸出カウンターの当番の時は必ず図書室で津田を待っているのだ。


って、真理ちゃんも図書室に行くの?」


「うん、ちょっとね、用事が・・・」


真理は理由を濁した。

不思議そうに真理を見る都に、


「都ちゃんて、津田君を待っている間、何しているの? 本読んでるの? もしかして勉強してたりするの?」


そう尋ね、話題を変えた。


「まさか! 都、勉強嫌いだもん。漫画読んで待ってるの。今日もクラスのお友達から借りたのよ」


「へえ」


都と話している時、真理の視界の外れに見知った姿が入った。


高田だった。


高田が奥の方からこちらに向かって歩いてくる。

その隣には長い黒髪の女子がいた。


(花沢楓と高田君・・・)


真理は、慌てて二人に背中を向けるようにして、都の前に立ちふさがった。


「都ちゃん! ま、漫画って何読んでるの!?」


「ふふ、真理ちゃんも漫画好きだものね。えーっとね~」


都はカバンを覗き、中を漁り出した。

そして、一冊の漫画本を取出して真理に見せた。

それと同時に、真理の背後を見て、驚いたような顔をした。


「あ、高田君?」


(え・・・?)


真理は都のその言葉に耳を疑った。


「・・・ああ、都ちゃん。久しぶり」


真理の背後から高田の声がする。


(嘘・・・、何? 二人知合い・・・?)


「うん、久しぶりね、高田君。最近、図書室に来ないから、全然会わなかったわね」


都はにっこりと高田に笑いかけている。

真理は、そっと振り返りチロリと高田を見た。


「・・・そうだね。図書室に行く用事も無くなったから・・・」


「そうなの? それもそうよね。何も毎日図書室で勉強しなくてもいいものね」


「・・・まあね」


ニコニコと微笑みながら話す都の対し、どこか寂し気に答える高田・・・。


(え・・・、もしかして・・・)


真理がそう疑問を持った時、高田と目が合った。


(やばっ!)


真理は慌てて都の方に振り返り、都が差し出している漫画本を手に取るとパラパラめくりだした。


「・・・じゃあ、また。都ちゃん」


「うん! バイバイ、高田君」


背後で立ち去る足音が聞こえて、真理は再びそっと後ろを振り向いた。

スタスタと歩いていく高田の後を、花沢楓が小走りで追いかけている。


そんな高田の背中は哀愁が漂っていた。


(そ、そうか・・・、高田君の好きな子って・・・)


真理は都を見た。


「真理ちゃんも知っている? この漫画」


都は嬉しそうに真理を見ている。


「・・・うん、知ってる。新巻出てたのね・・・。私も買わなきゃ・・・」


ああ、何という温度差だ。


(哀れ・・・、高田君・・・)


真理はもう一度高田の方を振り返り、去り行く後ろ姿を見つめた。

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