20.彼女の友達

今日は川田に会えなかったが、真理は難しいミッションをクリアしたことと、可愛らしいお弁当にありつけたことで、ご機嫌に高田家に帰宅した。


「ただいまです! おば様! 今日はお弁当ありがとうございました!」


すぐに台所に飛び込むと、夕飯の準備をしている高田の母親にお礼を言った。


「お帰りなさい。真理ちゃん。ふふふ。お弁当どうだった?」


「もうもう! そりゃあもう! すっごく可愛かったです! いっぱい写メ撮りましたよ!」


真理は興奮気味に巾着袋からお弁当箱を取り出した。


「それにめちゃめちゃ美味しかったし! おば様、すごいですね!!」


絶賛する真理に、高田の母親はご満悦のようだ。


「良かったわぁ、喜んでくれて。おばさん、こういうの作るの好きなのよ」


嬉しそうに微笑むと、真理からお弁当箱を受け取り、流し台に置いた。


「だけど、翔は全然喜んでくれないのよ~。普通のお弁当にしてくれって言われちゃって。男の子だから、気を使って飛行機とか車とかにしてるのに、それも止めてくれって」


「そうなんですか!?」


何を贅沢な事を言ってるんだ! あいつは!


「いいなあ、飛行機!」


「そう? じゃあ、明日の真理ちゃんのお弁当は飛行機にしてあげるわね!」


「え? 明日も作ってくれるんですか?」


真理は驚いたように高田の母親を見た。


「もちろん。一つ作るのも二つ作るのも同じって言ったでしょ? それに翔の普通のお弁当作ってたって、ちっとも楽しくないし」


「ありがとうございます! 楽しみです!」


真理は嬉しくなって、思わず手を叩いた。

そして、お弁当箱を洗おうと流し台に近づいた。そこには、もう一つ青いお弁当箱が置いてある。

開けてみると、中は空だ。


(よかった・・・。ちゃんと手元に届いてた・・・)


無事に高田の手元にこの弁当ブツが届き、中身を食した跡をこの目で確認できて、改めてホッとした。


(ありがとう! 津田君!)


真理は心の中で大いに津田に感謝した。

本当に今日は彼のお陰で助かった。


だが、安心してはいられない。

自分の弁当はこの上なく嬉しいが、高田の分がある限り、今後もこのような状況ミッションが発生する可能性はある。


(津田君。その時はまた宜しく)


そうだ。案ずることはない。その時はまた津田にお願いすればいい。


真理は気が軽くなり、鼻歌交じりに弁当箱を洗い始めた。





二つの弁当箱を洗い終わって、着替えようと自室に向かった時、運悪く階段で高田と鉢合わせしてしまった。


(ちっ・・・)


心の中で舌打ちをしながら、二階から降りてくる高田を踊り場でやり過ごそうとした時、


「中井さんって、バカなの?」


唐突に高田に言われ、真理は唖然とした。


目をパチクリしている真理を、高田は呆れたように見つめたが、


「いや、何でもない・・・。とりあえず、弁当ありがとう」


そう言うと、軽く溜息を付きながら降りてきた。

そして踊り場ですれ違う時、真理は我に返った。


「え? どういう意味?」


真理は高田の腕のシャツを掴んだ。


なんだ? 素直にお礼だけ言えばいいんじゃないのか?

なぜ、枕詞のようにバカを付けた?

え? 何? 必要? バカって。


「どういう意味って・・・。そのまんまだけど」


高田は面倒臭そうに首だけ振り向いた。


「あ?」


「だって、そうだろ? 川田君に弁当託すって・・・。勘違いされたけど」


「はい? 川田君? 何で、川田君が?」


「・・・川田君から受け取ったけど・・・」


「え?! 何で・・・?」


真理は目を丸めて固まった。

その隙に、高田は真理の手を振り払った。だが、真理は高田シャツを掴んだ体勢のまま動かない。


「・・・彼に頼んだんじゃないの?」


「・・・違う・・・」


「・・・?」


「違う・・・。津田君に頼んだ・・・」


「津田君?」


真理はコクンと頷いた。


「・・・ああ、なるほどね・・・」


高田は小声で呟いた。

何か思い当たる節があるらしい。


「中井さん、津田君と友達だったんだ?」


「・・・うん。同じ中学出身で・・・」


「ふーん」


「津田君の友達って言うより、都ちゃんの友達なの、私・・・」


「・・・」


「津田君の彼女の・・・」


「・・・」


「まあ、だから、友達って言うか、知り合い・・・?」


「・・・」


「・・・」


「・・・? 高田君?」


急に黙り込んだ高田を不思議に思い、真理は高田の顔を覗き込もうとした。

しかし、高田はスッと顔を背け、


「・・・津田君と俺はあまり仲良くないんだよね。だから、津田君が川田君に託したんだろうな」


そう言うと、振り向きもせずに階段を降りだした。


「え? そうなの?」


真理は驚いたように、降りていく高田の背中に向かって声を掛けたが、高田は返事をすることなく、そのまま行ってしまった。

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