19.ミッション2
真理から弁当を託された津田は困惑したまま、立ち尽くしていた。
でも、頼まれたからには仕方がない。
しっかり任務をこなさなければならない。
大きく溜息を付きながら、重い足取りで廊下を歩いていると、川田に声を掛けられた。
「どうしたの? 津田っち。溜息デカいけど」
「ああ、川田君・・・」
津田はちょっと情けない顔をして川田を見た。
「実は、知り合いに頼まれごとされちゃって・・・」
「頼まれごと?」
「うん」
津田は巾着袋を川田に見せた。
「高田君に渡して欲しいって、お弁当」
「へえ・・・」
津田は真理の意向を汲んで、名前を伏せた。
別に川田に話したところで真理の名前は漏れないだろうが、あれほど警戒しているのだから、黙っていることに越したことはないだろう。
だが・・・。
津田はまた溜息を付いた。
なぜなら、津田と高田は折り合いが悪いのだ。
陽キャラでイケメンで学級委員長でクラスの、いや、学年の人気者の高田に対し、陰キャラでコミュ障でチビでデブの津田とは交わる点がない。
交流が無いのに、なぜか折り合いが悪い。
どこかお互いライバル視しているところがチラリと伺えるのだ。
川田はそんな二人の間に流れている不穏な空気を知っている。
理由は分からないが、たかだか弁当を渡すことさえ躊躇するようなほど、二人の間には何かがあるのだろう。
川田は津田を気の毒に思った。
「渡すだけだろ? なら、俺が高田君に渡してやるよ。誰から?」
「え・・・、いいの?」
「うん。誰からって言った方がいいだろ?」
「あ、それは多分、渡すだけで分かると思う」
「ふーん、手紙でも入ってるのかな?」
川田はそんなことを言いながら、津田から巾着を受け取ると、さっさと高田のもとに向かった。
「ありがとう、川田君」
津田はホッとしたように、川田の背中に向かって礼を言った。
★
「高田君、これ、預かりもの」
高田は自分の机に弁当の入ったブルーデニムの巾着を置かれ、驚いて川田を見た。
「え? これ・・・」
「お弁当だろ? 手作りだね。さすが高田君!」
川田は少しお道化て笑って見せた。
このちょっとした冷やかしの笑い。
どうやら、母親が学校まで乗り込んで、適当な生徒—―川田—―を捕まえて、託したというわけでは無さそうだ。
となると、持ってきた人物は唯一人・・・。
「ありがとう、川田君」
高田は川田に合わせて、ちょっと首を竦めて笑って見せた。
「モテるって羨ましいよ!」
川田は笑って自分の席に戻っていった。
高田は笑いながらそれを見送ると、少し乱暴に弁当を机の中にしまった。
(何考えてんだ? あいつ。バカなのかな・・・?)
片思いの相手に弁当託すって、愚行極まり無いと思うのに・・・。
(まあ、俺の知ったことじゃないけど・・・)
★
ミッションを終えた真理は、気楽な気持ちでランチタイムを迎えていた。
食堂で奈菜と梨沙子が本日の定食を持ってくるのを、先にテーブルで待っていた。
目の前に置かれている弁当箱は、きっと真理のためにわざわざ用意してくれたのだろう。
ココット風のお弁当箱。色もピンクで何とも可愛らしい。
「珍しいわね、真理がお弁当なんて」
「ホント~、いいなあ、お弁当」
「えへへ~~」
真理は嬉しそうに二人を迎えた。
二人が席に着くと、いざオープン!っとばかりに蓋を開けた。
「きゃあ~! 可愛い~~!!」
三人とも真理のお弁当箱を覗いて、歓声を上げた。
「すごいじゃない!」
「なにこれ~! キャラ弁? かわいい~!」
「ちょっと、写メ、写メ!」
赤に緑に黄色と色は鮮やかで美しいのはもちろんのこと、おにぎりは海苔と田附などで可愛らしく顔が描かれている。
当然、ウインナーはタコさん。胡麻のつぶらな瞳とチーズの口まである!
「えー! すごーい! これ、真理ちゃんのお母さんが作ったの?」
「え・・・」
真理は興奮状態が一気に冷めた。
そうだ・・・。
誰が作ったかは間違っても言えないので、自分の母親という事にしておいたのだ。
それが、まさかのこのクオリティ。
自分の母親では絶対にあり得ない。
これを母親作として世に公表していいのだろうか?
母親の手柄にしていいものなのか?
いやいや、さすがにそれはイカンだろう・・・。
とは言っても、とても正直に打ち明けることはできない。
(ご、ごめんなさい・・・。おば様・・・)
真理は急激に激しい罪悪感に襲われたが、無理やり平静を装って、お弁当を食べ始めた。
「美味しい!」
一口、口にすると、見た目の美しさを裏切らない美味しさに、罪悪感は吹き飛び、夢中になって食べ始めた。
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