17.お弁当
翌朝、真理はベッドから起き上がると、昨日の高田のやり取りを思い出し、気が滅入ってしまった。
自分から喧嘩を売り込んでおいて、泣かされて帰って来ていれば世話は無い。
(悔しいけど、あいつの言う通りだもんね・・・)
自分より楓の方か数倍良い女であるという事。
それだけじゃない。
両親同士の約束なんて放っておけという事も。
そう、高田の言う通りだ。
やつが言うことは一々正しい。
(だから、あいつの言う事を聞こう・・・)
真理はノソノソと制服に着替え始めた。
(高田君の言う通り、高田君には金輪際、近づかないようにしよう・・・)
その方が身のためだ。高田に協力を頼むなんてやめよう。
もう一切関わらない方がいい。
それに、自分の恋は自分で何とかしないと。
真理は重い足取りで、リビングに向かった。
★
朝食は、高田は真理と入れ違いで済ませていたらしく、テーブルに姿は無かった。
真理が歯を磨いているときに、玄関のドアが開く音がしたので、早々に登校したようだ。
顔を合わせずに済んでホッとしていたところに、高田の母親に呼ばれた。
「真理ちゃん! おばさん、今日ね、お弁当作ったのよ!」
「え? お弁当ですか・・・?」
テーブルの上にはお弁当箱が入っていると思われる可愛らしい花柄の巾着袋が鎮座していた。
真理の学校には食堂がある。しかも、味もなかなか評判が良く、真理は常連様だ。
それだけではなく、出入りしているパン屋も、これもまた人気店。
そのために、お弁当派は少数だ。
「お弁当・・・」
しかし、真理はこの巾着袋が輝いて見えた。
お弁当なんて何年ぶりだろう!
真理の母親はお弁当作りが大嫌いだ。
小中学校は給食があったし、高校に入学してからは、食堂がある学校にこれ幸いと、一度もお弁当を作ってくれたことが無い。
「・・・うわぁ・・・! お弁当!! いいんですか?」
真理は貴重な物でも触るように巾着袋を手に取った。
「翔はいつもお弁当なのよ。ここ数日、作れなかったけど。一つ作るのも二つ作るのも変わらないから、真理ちゃんが良ければ、作るわね」
「嬉しいです! ありがとうございます!」
おべんと、おべんと、うれしいな♪
真理の頭の中で懐かしい曲が流れた。
すっかり、ご機嫌になり浮かれているところに、
「それでね、真理ちゃん。悪いんだけど、翔の分も持って行ってもらえないかしら? あの子に渡すの忘れちゃって」
「え・・・」
高田の母親の言葉に、頭に流れていたメロディーがプツっと途絶えた。
気が付かなったが、テーブルにはもう一つ地味なブルーデニムの巾着袋が置いてある。
「・・・」
「ごめんなさいね~。頼める?」
高田の母親は可愛らしく首を傾げた。
「あはは・・・、もちろん・・・!」
それ以外の言葉は出てこない。
真理の返事に、高田の母親は満足そうに微笑んで、可愛らしい手提げに、高田の弁当と真理の弁当を入れて、真理に手渡した。
(くそ~、奴には近づかないようにしようって決めたばっかりだったのに~!)
真理は心の中で叫びながらも、愛想笑いを浮かべ、弁当を受け取った。
★
学校に着いてから、真理はこの『弁当を届ける』というミッションをどうクリアするか、ひたすら考えていた。
(く~~、せめてL●NE登録ぐらいしておけばよかった・・・)
そうすれば、下駄箱にでも放り込んで、メッセージを送信すればいいだけなのに・・・。
お昼休みになってからでは遅い。
さっさと食堂に行ってしまう可能性がある。
食堂で弁当を広げている生徒もたくさんいるが、あんな大衆の前で弁当を渡すことなんてできない。
もちろん、食堂には行かないで、購買のパンを買うかもしれない。
兎にも角にも、1時限目から4時限目までのわずかな休み時間に渡さねばならいのだ。
また、特進科の棟まで乗り込むしかない。
更に、乗り込んだ後も問題がある。
直接この
高田とは面識は無いことにしておいた方がいい。
すぐにでも他人様になるのだから、これからの事を考えると、周りの人に知人と思われない方がいいはずだ。
だが、呼び出す手段がない以上、直接手渡すしかないのではないか?
(あ~~、考え過ぎて剥げちゃう~~~)
昨日同様、ホームルーム中も1時限中もまったく集中できず、一人頭を悩ませていた。
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