15.線を引く場所

「うん。好きな人がいるからって断られたらしいわよ」


「へえ!」


「でも、未だに、高田君は誰とも付き合っている様子は無いから、諦めないって言ってたわ」


「ふーん。あの花沢楓がフラれるって、高田翔の好きな人って誰よ?」


梨沙子の質問に真理も食い付いた。


高田の好きな人を知ることができれば、これから、何らかの切り札に役立つのではないか?

脅しに使うにしろ、協力を申し出るにしろ、ジョーカーになるのではないだろうか?


真理は息を殺して、奈菜の回答を待った。


「そこまでは知らないのよね」


奈菜は残念そうに肩を竦めた。


「なんだぁ・・・」


真理も残念そうに肩を落とした。


「何で? 真理も興味あるの? 高田君の好きな人に?」


梨沙子にそう聞かれ、真理はギクリと体を震わせた。


「いやいや! 別に! あはは!」


慌てて首を振って笑って誤魔化した。

しかし、すぐに疑問が沸いた。


高田に好きな人・・・。

そうなると一方通行の構図に先が出来る。


真理 → 川田 → 花沢楓 → 高田 → 誰か


(あれ・・・? そうしたらどこで線を引く・・・?)


真理 → 川田 → 花沢楓 | 高田 → 誰か


こう引くとなると、自分はかなり不利ではないか?


真理 → 川田 | 花沢楓 → 高田 → 誰か


こう引くとなると、楓が圧倒的に不利だろう。

一度フラれているわけだし・・・。

もしかして楓は川田に振り向いてしまうのではないか?


そうなると・・・。


真理 | 川田 → 花沢楓 | 高田 → 誰か


(まずい! これはまずい!)


真理の顔が歪んだ。

高田が「誰か」とくっつくのは良い! それはすごく良い!

それはそれで、許嫁解消に繋がる可能性が濃厚だ。


だが、川田が楓とくっつくのを見過ごすわけにはいかない!

自分だって恋を成就したいのだ!


(これは、花沢楓と高田君にくっついてもらう外ないわ!! この「誰か」さんには消えてもらわなければ!)


真理はギュギュギューっと箸を握り締めた。





高田の家に帰ってから、真理は何とか高田と話をしようと様子を窺っていたが、明らかに真理を避けている高田に声を掛ける隙が無い。


夕食のタイミングで顔を合わせたが、両親がいる前で出来る話でもない。


真理は仕方なく、意を決して、高田の部屋に赴いた。

扉をノックるすると、


「はい」


という、非常に不機嫌な声が聞こえる。

まだ、誰とも言っていないのに、すでに真理と分かっているのかと思うほどだ。

真理はこの低い声に一瞬たじろいだが、ピンポンダッシュのように逃げるわけにもいかない。


「えっと・・・、私、真理ですが・・・」


恐る恐る声を掛けると、


「俺の部屋に近寄らないように言ったはずだけど」


明らかに怒っている声が部屋の中から返ってきた。

扉を開ける気配すら感じない。


「ええ、ええ、もちろん聞いておりますよ、旦那様。でも、どうしても話したいことがあって、お訪ねした次第でございます。どうか、哀れと思って扉を開けてくれないでしょうかねっ?」


「ふざけてんの?」


「もう! 開けてよ! ちょっと聞きたいことがあるだけよ!」


「お断り」


「は?」


「質問に答える気はないから、戻ってくれる?」


なんだとぉ! こいつ!


一向に扉を開けようとしないどころか、あまりにも不親切な態度に真理の怒りはあっという間に頂点に達した。


「それじゃあ、ここで大きな声で聞くけどいい?」


「だから、答えないって言ってるだろ」


「あのさーー! 学校で聞いたんだけどさああ!! 高田君ってさああああ!!!」


「おいっ!!」


真理の大声に、流石の高田も扉を開けた。

開いた瞬間、真理は勝ったと思い、ニンマリと笑った。

だが優越感に浸ったのは一瞬だった。


高田に手首を掴まれたと思った瞬間、部屋に引き込まれた。

バタンっと扉が閉まったかと思うと、そのまま扉に押し付けられた。

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