14.一方通行
「そ、そうなんだ・・・」
真理は途端に力が抜けた。
「楓ちゃんがどうしたの?」
奈菜は首を傾げた。
「・・・川田君と仲良く歩いているところ見たから・・・」
真理はガックリと肩を落として呟いた。
「ああ、そうなのね。確かに川田君と仲が良いって言ってたわ、楓ちゃん。だから、あれだけ川田君情報が引き出せたわけだけど」
「・・・普通に仲が良いって雰囲気じゃなかったんだけど・・・」
不安そうな顔の真理に、奈菜は笑い出した。
「それは真理ちゃんだからそう見えるのよ。川田君に彼女がいないって教えてくれたのは楓ちゃんよ」
「それは、いるかいないかって聞いただけでしょ? 好きか嫌いかじゃなくって・・・」
そうだ・・・、よくあるじゃないか・・・。
仲良くしていた異性に、自分以外の者が近づいた途端、急に意識するパターン。
間を取り持つフリをして、自分が抜け駆けしてモノにするっていう構図。
(ベタじゃん・・・)
真理は溜息を付いて俯いた。
「大丈夫よ、真理ちゃん! 楓ちゃんは他に好きな人がいるって言っていたから」
「え?」
真理は思わず顔を上げて奈菜を見た。
奈菜は相変わらずにっこりと笑っている。
「え? え? そうなの?」
「うん」
奈菜はちょっとドヤ顔で真理を見た。
「高田君って知ってるでしょ? 川田君と同じクラスの、あの万年1位の出来過ぎ王子」
「!」
真理は息が止まりそうになった。
いや、実際に数秒止まった。
「彼の事が好きなんだって。だから安心して、真理ちゃん」
「・・・」
目をパチクリして奈菜を見ているところに、梨沙子がやって来た。
「おはよう。真理、退いて、私の席」
真理は無言で立ち上がった。
「? どしたの? 真理?」
ぼーっとしている真理に、梨沙子は首を傾げた。
「だから、大丈夫よ~、真理ちゃん。心配しないで!」
「うん・・・。ありがとう、奈菜ちゃん」
「なに? 心配って?」
梨沙子は奈菜と真理を交互に見た。
「おはよう、梨沙子・・・。ごめん、席に戻るわ」
「?」
真理は混乱する頭を抱えて、自分の席に着いた。
同時に、鐘がなり、担任の教諭が教室に入ってきた。
★
朝のホームルーム間中も、一時限目の授業中も真理はぜんぜん集中できなかった。
頭は全然違うことを考えていた。
(・・・どうすれば上手くいく・・・?)
女の感が正しければ、川田はあの花沢楓という子に少なからず好意を持っているはずだ。
真理は構図をノートの端に描いてみた。
真理 → 川田 → 花沢楓 → 高田
完全に一方通行状態だ。
このままではいけない。
スッと川田と楓の間に線を引いた。
真理 → 川田 | 花沢楓 → 高田
こうであれば、何の問題もない。
いや、こうであるべきなのだ。こうなるように動かねばならない。
今まで通り、いやそれ以上に拍車をかけて『真理 → 川田』を頑張る。
そして、『花沢楓 → 高田』を成功するように働きかける。
こうなれば万事上手くいくではないか。
しかし、真理には今朝の光景が目に浮かんだ。
川田が楓に向けた笑顔・・・。
真理は無意識に二か所に線を引いた。
真理 | 川田 → 花沢楓 | 高田
(もし、これが正しかったら・・・)
真理はプルプルっと頭を振って、シャーペンでガリガリとこの構図を消した。
★
「あの花沢楓が奈菜の友達だったんて、知らなかったわ」
食堂でランチをしている時、梨沙子はどこか不満げに話した。
「ん~、もともとはそんな仲良かったわけじゃないけどね。川田君情報を聞くようになって前より親しくなった感じ。真理ちゃんのお陰ね」
「あの花沢楓って?」
真理は梨沙子を不思議そうに見た。
「だって、花沢楓って結構有名じゃない。特進科でエリートな上に清楚系美人って。去年、学年別マドンナのランキングで3位じゃなかった?」
「あ~・・・」
真理は目を細めて、コーヒー牛乳をチューっと啜った。
そう言えば、そんなくだらないランキングがあった。誰が主催か知らないが。
圏外である真理と奈菜はそんなことに興味はないが、ギリギリ10位に食い込む実力の持ち主の梨沙子は、そっち側の人間だ。
「ふーん、その花沢楓の想い人が高田翔ね~。然もありなんって感じ」
「っげほ・・・」
梨沙子の口からこぼれた「高田翔」という言葉に、真理は思わず咽た。
「大丈夫? 真理ちゃん?」
奈菜がすぐにペーパーナプキンを手渡してくれ、真理は口を拭いながら、ブンブンと大きく頷いた。
「でもね、一回、告白して断られちゃったんだって」
奈菜の爆弾発言に真理はさらにゲホゲホと咳き込んだ。
「ちょっと、大丈夫?」
隣の席の梨沙子は真理の背中を摩った。
一方で、奈菜の言葉に興味が止まらないらしく、目を丸めて奈菜を見た。
「ホントに?」
「うん。好きな人がいるからって断られたらしいわよ」
真理も梨沙子同様、目を丸めて奈菜を見た。
―――好きな人・・・。
何という朗報だ!
奴にもいるんじゃないか!「好きな人」が!
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