4.恋した理由

とんだことになった!


真理は自分の部屋のベッドの上でのた打ち回っていた。


(落とす? 川田君を? どうやって?)


クッションを抱え、体を左右にグリグリと反転させてもがきながら唸り続けた。


もちろん、何時かは告白しようと思っていたし、お付き合いしたいという願望はあった。

だからこそ、お近づきなろうと努力していたのだ。

だか、他人からこうもはっきりと目標にさせられると困惑しきりだ。


『告白したい』が『告白しなければならない』に変わってしまったのだ。


「う、う・・・、川田君・・・」


真理はクッションに顔を埋めて、想い人の名前を呟いた。


―――その想い人、川田遼という生徒とは・・・。


それはそれは、全てにおいて、ど真ん中にいる生徒だ。


成績は学年全体の中では勝ち組でも、特進科クラスの中では中の下。

運動神経は特進科クラスの中では勝ち組だが、学年全体なれば上の下程度。


普通科の真理と特進科の川田は、友達でも何でもないので接点などない。


そんな真理が、なぜ、そんなことを知っているかと言えば、自分の友達の中に情報屋がいるからだ。

同じクラスの奈菜は特進科にお友達を持っている。

真理は、その伝で細々と川田情報を集めているのだ。


では、なぜ、こんなに普通の生徒に恋をしているのかと言うと・・・。


偶然にも、真理がケガしたところを川田に保健室に連れて行ってもらったことがあったのだ。


ある日の放課後、日直だった真理は日誌を職員室にいる担任のもとに持って行った。

帰り際、1年生の時の担任に会い雑談をしていると、その教諭が教頭に呼ばれた。

教諭は荷物を準備室に持って行くところだったので、真理が代わりに持って行くことを申し出た。


荷物自体は軽いものの、かなり大きな段ボールで、抱えていると足元が見えない。

注意深く歩いていたつもりだったが、途中、段差に気が付かずに転んでしまった。


そこに、手を差し伸べてくれたのが川田だった。


川田は荷物を持ってくれた上に、膝を擦りむいた真理を保健室まで送り届けてくれた。

しかも、ご丁寧に、手当てが終わるまで付き合ってくれた。


もともと惚れっぽい真理は、この川田の優しい対応に、あっという間に恋に落ちてしまったのだ。


それ以来、何かと川田の情報を集め、なんとかお近づきになれないものかと考えていた。


奈菜は友人の恋路に興味があるのか、協力を惜しまなかったが、仲良くしているもう一人の友人の梨沙子は、積極的なタイプで、ちまちました情報集めしかしない真理にイライラしたらしい。

ある日、川田を図書室で見かけた時、一緒にいた梨沙子に突然背中をドンっと押され、川田の前に飛び出してしまった。


「あれ? 中井さん?」


「あ、ど、どうも! 川田君! こ、こんにちは! えっと、この間はどうもありがとう!」


「いやいや。 それより怪我は大丈夫?」


なんと、普通に優しく話してくれるではないか!

それだけで、真理は舞い上がる思いだった。


それ以来、お互い見かけると挨拶や二三言おしゃべりしたりする間柄になった。


よし! このまま、どんどん距離を詰めていこう!

そして、頃合いを見て告白だ!


そう思っていた矢先の、許嫁の登場だったのだ。


「告白しようとは思っていました・・・。思っていましたさ・・・。でも、人には準備とタイミングと勇気ってもんが必要なんだから~」


真理はギュギュギュ~っとクッションを抱きしめて、端に噛みついた。


「くそ~~、ママめ~~!」

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