第3話 ワカレ

 犬モドキに2人は乗ってその輝く花のもとに向かった。


「俺の家だ…」


 マガトは犬モドキを降りて部屋の窓を開けてみる。光の中心には確かにマガトが育てていたあの花があった。蕾から花開き、大輪の白い花が顔を見せ、その周りは細い花びらが伸びている。

 マガトはおもむろに鉢ごと持ち上げ、部屋の外に出た。そして気づいたことがあった。同じ場所にとどまっているにも関わらず黒い獣が襲ってこない。周りを見ると黒い獣はこちらを見ていたが、近づいてはこない。マガトが一歩前に歩くと正面の黒い獣達が一歩下がる。どうやらこの花の光には近づけないらしい。


「マガトその花をこっちに」


 ハカセに言われるまま渡した。ハカセは犬モドキにそれを括り付けた。よく見ると犬モドキには他にもバッグやポーチなど色々括り付けられていた。固定の確認が終わるとハカセはマガトを見て、


「マガト頼みがあるの」


 真剣な面持ちだった。マガトはゆっくりと頷く。


「この闇は広がり続けている。望遠鏡で確認したから間違いないわ。このままではやがて隣の王国まで達してしまうでしょう。王国には沢山の人々が住んでいる。被害は計り知れない。頼みはその王国にこの危機を伝えてほしいの。大丈夫、王国には私の知り合いがいるわ、まず彼に伝えて」

「わかった必ず伝えるよ」


 マガトは犬モドキに跨った。が、しばらく待ってもハカセが乗る気配はない。


「急がないと、ほらハカセも乗って」


 ハカセは首を横に振った。


「何で――」


「一人で行って。2人ではその子、ツキが走るのが遅くなるでしょう?闇が到達するより早く王国に伝えられないよ」

「ハカセ、ちっちゃいんだし大丈夫だよ」

「無理よ、落ち葉じゃないんだから」


 ハカセは悲しそうに笑う。


「じゃあ、この花置いていくよ!この花が有れば寄ってこないんだ」


 花の固定を解こうとするとマガトの手にそっとハカセの手が重なる。小さくて冷たい手。


「この花の名前は"クイーンオブザナイト"。きっと必要になる」

「花の名前なんてどうーー」

「行って、ツキ」


 そう言ってハカセが犬モドキを軽く叩く。するとツキと呼ばれた犬モドキが走り始めた。


「ちょっ、止まれ!」


 マガトが叫んだところでツキは止まらない。彼は飛び降りようと身を乗り出したが、もうすでに十分速度が出ていて、躊躇してしまう。


「ハカセ!」


 彼女は首を傾けて優しく笑っていた。

 だんだん遠くなっていくハカセ。彼女はたくさんの黒い獣に飛びかかられ、埋もれてしまいマガトからは姿すら見えなくなってしまった。

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