第5話

謎のおっさんは止まっている竹口に手のひらをむけた。念じるとは少し違うかもしれないが、険しい表情をしてなにかを唱えている。

そして、次第におっさんと竹口の体が発光し、目の前を眩しく染めた。

光が消えて、視界が開けると、おっさんの姿は消えていて、時間が動きだした。

高だかと上げた竹口の右手は静かに下がっていき、竹口(謎のおっさん)が恥ずかしそうに改まる。


「おほん、じゃあ、いきましょうか?」と言ってカラオケ店に入っていた。


後に続いて入った志帆ちゃんと宮上はそんな竹口の異変には気づいていないようだった。


この先大丈夫なのだろうかと、一抹の不安を抱えながら、俺も店内に入る。


受付を済ませて部屋に入ると、宮上は暗くなっている部屋の照明をつけて「明るくするねー。なに歌おっかなー」と声を弾ませている。


俺は志帆ちゃんが横にいることに幸せを感じていた。

志帆ちゃんが横にいることは過去にも経験したことがのあるはずなのに、同じ空間にいることを意識して緊張している。志帆ちゃんとは普段、学校では話せていない。その分近くにいるだけで、まるで夢でも見ているようだ。

干渉にひたっていると、突然竹口(謎のおっさん)が声を荒げる。


「おぬし!」


「え?わたしこと?」と宮上が不思議そうに反応する。


突然変な口調で話しかける竹口を見て、宮上は不気味そうに顔を歪めている。


「そうじゃ、おぬしじゃ。電気はつけんでいい。暗いままにしておけ」


「……え? なんで?」


謎のおっさんは何て言おうか考えていたのか、少し沈黙した。そして、数秒後「それは……。秘密じゃ。グフフ」と気持ち悪さに拍車をかける。

ましてや言っているのはおっさんでも見た目は竹口だ。このままだと、竹口の印象の急降下は免れない。


空気も時も止まるおっさんの危険な発言に周りは凍ったように固まっている。

魔法を使わないで、時をとめた竹口(おっさん)はなに食わぬ顔で平然としている。


「おい、なにいってんだよ。ドン引きしてんだろ?」


状況に耐えかねて俺はすかさず竹口の耳元でそう言った。


「なにを言っておる。ワシのような魔法使いはこういう光に弱いんじゃ。あまり浴びすぎると魔法が解けてしまうかもしれん」


「なんだよそれ。先にいえよ。どうすんだよこの空気。それに、おっさんのせいで竹口の印象がどんどん下がってるぞ」


「うむ、そうじゃな…… なんとかしてくれ」


「えっ? おれが?」


「そうじゃ、おぬしはワシに頼ってばっかでなにもしとらん。少しは自分で道を切り開いてみせよ 」


なにかしら成功してから言うべき言葉を平然といい放ち、髭のない顎を擦っていた。


「………… 」


見捨てようかとも思ったが、これまで時間を止めたり、過去にいけたりと、実際に魔法のような力を体験している俺は、おっさんの光に弱いという発言も信じるしかなく、助けざるおえなかった。


「あー、そうそう。コイツ最近ゲームのしすぎで光を浴びると目が痛いらしいんだよ」


俺の苦し紛れの発言に宮上は若干の恐怖すら帯びていた表情から少し柔いでいった。


「そ、そっか。それならそうと言ってよ!でも暗くしてモニター見る方が目に悪くない?」


まさにその通りだ。

だが、ここで引くわけにはいかない。


「そ、そういう光は、ゲームで慣れてるから大丈夫なんだよ」


「へんなのー。ま、わかったわ。そのかわり変なことしないでよね」


「す、するわけないだろ」


恐る恐る桜田の方を見ると桜田も安堵の表情を浮かべていて俺はひとまずホッとした。


竹口(謎のおっさん)がまたしても和やかになりつつあった空気を切り裂いた。


「ところでカラオケってなにをするんじゃ?」


殺意すら芽生えるおっさんの発言に、今回は庇いようがないと目をそむけていると、宮上は「歌うに決まってんでしょ。それよりあんたいつまでそんな変な喋りかたしてんの? なんのノリ?」といって笑った。


俺はとりあえずなにもしないで座っててくれと竹口(謎のおっさん)に懇願してカラオケが始まった。


先に歌うのは誰かといった定番の下りは必要なく、宮上は「私から歌うね」と言って率先してデンモクに曲を入れた。


本来の竹口なら、ここで宮上と、歌う順番の取り合いになりそうだが、今この空間に宮上の意向に反対する人はいない。みんな心よく承諾した。


歌が始まるとおっさんはなぜか驚いた様子でモニターを食い入るように見つめている。見ると、妖精っぽいコスプレをした女性のミュージックビデオだった。


そんなおっさんの様子をシカトして、俺はモニターの光が桜田の横顔をあの時の花火のように色鮮やかに輝かせているのをチラチラと見て鼓動を早くしていた。


「今じゃ……」


モニターに集中してたはずのおっさんが俺にそう言った。


「え? 今って…… 」


「花火誘え」


「いや、今じゃないだろ。まだ始まったばっかだし、これで誘っても変わらないだろ。それに今のところおっさんになった意味全くないし」


「大丈夫じゃワシを信じろ。チャンスは今しかない」そういって曲の途中で竹口(おっさん)は席をたった。


これで誘ってオッケーもらったとしても、あの時と同じなんじゃ…… と不安を抱きつつもおっさんに従うしかなった。


竹口(おっさん)はなぜか桜田の隣に座っていて、桜田は突然席を立つ竹口(おっさん)に「どうしたの?」ときいた。すると「ちょっと、トイレ」と返して意外にも違和感なく席を離れた。


俺はモニターを見る桜田に話しかける。


「あのさ……」

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タイムリターン~憧れの人に告白をすると魔導士の道が開かれます @kibata-777

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