第3話
クラスの喧騒を制すかのように、担任の教師はわざとらしく、咳払いをした。
「オホン!よし、じゃあホームルーム終了! お前ら気を付けてかえれよ」
それぞれが席から立ち上がり、帰ろうとするなか、前の席に座っている友達の竹口明が俺に話しかけていた。
「なぁ!おい!ホーリー! なぁって!」
「おわ!え? ここは?」
言ったあとすぐに、はしゃぐ竹口を見て、そうか、となんとなく状況を理解した。きっと俺は、おっさんの魔法が成功して、あの日に戻ったんだ。
じゃあ、このあと花火大会に……。
「なにビックリしてんだよ。お前、俺の話し聞いてたのか?」
「ん? ああ、なんだっけ?」
「おいおい、そんなんで大丈夫か? 皆でカラオケに行く話しだよ」
「え? カラオケ!?」
そういえば、と必死に記憶を呼び起こした。確かにカラオケに行った覚えがある。
「えっと、メンバー誰だっけ?」
「はぁ? お前寝てんのか? 俺とお前とお前の大好きな桜田志帆ちゃんだろ? お前が躍起になって頼むから俺の力でやっと取り付けた約束なんだぞ」
「わ、わるい。そ、そうか。確かに」
「でっ、今日お前、誘うんだろ?」
「え?」
「明日の花火大会だよ。俺は誘うぜ」
「はぁ? なんでお前が誘うんだよ?」
「なに怒ってんだよ。お前は志帆ちゃん。俺は梨華ちゃんってずっと話してたじゃねぇか」
俺は記憶を再び呼び起こした。
確かによくよく考えてみれば、俺ら二人に志帆ちゃんが一人でくるはずもない。しかし、俺には気掛かりがあった。それは花火大会の日に竹口がいなかったことだ。
だとすると、コイツは断られたことになる。
このままコイツを幸せモードにさせといていいのだろうか。
「だからさぁ、俺とお前でダブルデートの日も近いかもしれないよな」
「え? あ、あぁ、そうだな」
「そしたら、俺とお前で彼女持ちだぜ? そんなイケテる高校生活あるかよ?」
浮かれている竹口の様子を見て俺は目を背ける。
可哀想なやつだ……。これからフラレるともしらずに。ここは友達として俺が止めるべきなんじゃなかろうか。
竹口が浮かれて話し続けるのを俺は止めるように立ち上がった。
「もし……」
「竹口!!」
「な、なんだよ。梨華ちゃんはダメだぞ?」
「いや、そうじゃない。今日誘うのは止めておけ」
「はぁ? なんで?」
「お前は断られるからだ」
へらへらしていた竹口の顔が一瞬真顔になるがすぐに元に戻り、含みのある笑みを浮かべる。
「さては、お前、俺に先を越されるのが怖いんだろ?」
「は?」
竹口は俺の肩にそっと手を置いた。
「安心しろよ。俺が先に彼女できてもお前とは友達だからよ」
ヤバイ、止めるどころかひっぱたきたくなってきた。
「あ、ありがとな……」
震える口でなんとか答える。
「よし、そんじゃカラオケで待ち合わせてるから行こうぜ」
俺はこれからフラレにいくであろう陽気な竹口の後ろすがたを見ながら教室を後にした。
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