第2話
「んじゃ、やり直すぞ」
謎の男は髭を触りながらいった。
魔法なんて信じたことはないが、事実、俺は魔法のような状況を見せられている。
もし、本当に魔法で時間をやり直せるとしたら、と謎の男に少しの期待を寄せはじめ、緊張していた。
そして、至って自然に、ひとつの疑問がうまれる。
「ちょ、ちょっと待ってよ。今やり直したって結果は同じだろ?」
男はわざとらしく、なるほど、といった表情をしたあと、胡散臭く考える素振りをみせる。
「うーん。それもそうじゃな……」
「だろ? それにやり直すっていったってどこから…… 」
「そうじゃ! 心の声がそのまま口からでる魔法をかけてやろう」
名案だ、と言わんばかりの満足気な表情をしている。
思わず、心のこえ? と心で呟いたあと、口に出して確認する。
「心の声? 嫌だよ! 恥ずかしいだろ?」
「お前さんのあの口下手な告白の方がよっぽど恥ずかしいわい。女の子は口先よりも心が伝わるほうが嬉しいんじゃよ。お前さんが心から思っていることを言えばきっと思いは通じる!」
悔しいが、この謎の男の言う事には妙な説得力があった。
「……なるほど、じゃあ、お願いします」と渋々了承する。
「うむ…… 覚悟は決まったようじゃな。時間よ、戻れ。戻りなさい」
「なんだその呪文」
謎の男の体は本当に魔法のように強く発光した。光は次第に大きくなり、目の前を白く染める。
気がつくと、あの謎の男はいなくなっていた。
なにが起きたのかわからず、周りを見渡していると、鋭い重低音が響きわたる。
「綺麗……」
彼女の呟いた言葉に、ようやく状況を理解した。俺は告白する前に戻ったんだ。
おっさん頼む! と願いを込めて、次の花火が上がると、俺は彼女の方を向いた。
「あ、あのさ……」
「どうしたの? 花火見ないの?」
「実は伝えたい事があるんだ……」
「え? なに? 」
「花火よりも綺麗な君の隣は僕だけの特等席だ。この夜空に君との永遠を願ってる。あと胸が……」
「えっ? 鳳理君きもちわ…… 」
「ご来場の皆さまに申し上げます。市民花火大会にお越しくださいまして誠に……」
再び時間は止まったようだ。なんなら今すぐ自分の心臓もとめたいくらいだ。
愕然と立ち尽くしていると「ププ……」と不快な笑い声が後ろから聞こえた。
「おい……」
俺が振り向くと謎の男は吹き出したように笑う。
「ぎゃははは。なんじゃおぬし、そんな事考えとったのか。思わず女の子もきも……」
「いうな!それにこれはあんたの提案だろ。責任とれよ」
「いやいや、笑ってすまなかった。ププ、胸好き特等席君」
「こ○すぞ」
「いや、わるかった。そうじゃな、いきなり告白の場面からやり直すのは酷というもんじゃな」
「最初からそう言ってんだろ。どうすんだよ。巨大な黒歴史つくらせやがって」
「うむ……。それにしても、不思議じゃ。告白しても無理な男のお主となぜ彼女は一緒に花火大会に? それも二人だけで」
「それは……。俺にもわかんないよ。誘ったらその時は嬉しそうに……」
「それじゃ!」と謎の男は懲りずに、またなにかを閃いたようだった。
「な、なんだよ……」
「そのおなごと花火大会に行く約束をした日に戻れば、なにかわかるかもしれん」
「…… 確かにそうかもしれないけど、でもそんな事って」
「可能じゃよ。わしは魔法使いなんじゃから」
「…………」
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