完全██編8 馬車旅1日目

「ねえ。おもしろい話して」


  そう どお

 エミの雑すぎるフリがきた。


 まあ、気持ちはわかる。わかるよ。

 馬車ヒマすぎ。


 やることないし、2人きりならヤッてたかもしれない。さすがにそれはプレイとしてのレベルが高すぎるが。隣りにアリアがいてよかったよ。


「うー…」


 エミのこのフリ、数百回目なんじゃないか? 異世界ってこんなにムチャブリされるもんなのか。若手芸人かよ。


「んー……。これはさぁ…」


 詰まらんくても即レスが正解。長考はハードル上げるだけの悪手。適当に話し始める。


「元いた世界の話なんだけど、」


 はあ、たまーにキチいなーってなるね。ギャグマンガ家がよく病むの、理由がわかった気がする。


 そもそも。

 面白いってどういうことなんだろうね? 考えれば考えるほどわからなくなっていく。面白さとは何か。悩む。これはもう哲学の世界では。


 わけがわからなくなったから、信頼と実績の基本のキをチョイスした。


 そう、下ネタをね。


「俺の国は、あまりセックスをしない国でな」

「セックスをしない国」

「だから男はみんな自分で処理してるんだ。オナホで」

「おなほって?」


 エミの瞳が俺に向く。

 赤い瞳、その奥に興味の火がちろちろと燃えはじめていた。よしよし。


「女の腰の形をしたシリコンだよ」

「しりこん?」

「やわらかい、石かな? 本物には形もやわらかさもぜんぜん勝てないけど、みんなそれでガマンしてるんだ」


 と言って視線をエミにすこし向けた。

 前かがみになってヒザに頬杖ついてるから、腰のラインが丸わかりだった。ほんと、エミはボディーラインが綺麗なんだよな。

 今日の格好ハイウエストパンツが似合いすぎてる。


 ほんのりムラッとしてきたのが視線と魔力で伝わったのか、エミにヒジでつつかれた。アリアがいる。始めるわけにいかない。


「腰だけのタイプから全身を再現してるものまであった。高いヤツは顔がモノすごく可愛いくて、アレは芸術品みたいなもんさ。俺が1年働いてやっと買えるくらい」


ガタン


 馬車がすこし揺れた。御者の声がけもないから、石を踏んだだけだな。この異世界でほぼ最高の馬車らしいけど揺れるもんは揺れるね。


 こんな環境で寝れるのはのび太くん10才くらいだろ。あいつ、昼寝の世界大会で優勝してるからな。朝まで優勝してたアリアちゃん18才も寝れてるみたいだけど。熟睡してるな。


「望まない妊娠や病気がうつることもある。性病だけじゃなくて、女の膀胱ぼうこうに雑菌が入っても炎症が起きるし。SAFE SEX=NO SEXやらないのがいちばんあんぜんってことかもな」

「マコトは」

「うん?」

「マコトは、もってたの? その、おなほ」


 オナホの話をするピュアな銀髪赤目の美少女。今日はオシャレに髪を後ろに結ってるのもあいまって、やたらとグッとくるものがある。


「持ってたよ。持ってたから、はぁ……」

「ど、どうしたの? 急に。落ち込んじゃって」

「俺ってさ、元の世界から突然消えたワケだろ? そしたら大騒ぎになって俺の部屋とかいろいろ探されてるだろ絶対。オナホとか、親と妹に見られてるよなぁ……」


 1番妹に見られたくなかった。ガチでヘコむ。


「あははっ。えっちなお兄ちゃん! 元気だしなよっ」


 エミに肩をたたかれる。エミは明るいな。


 そういえば、家族の話はエミにほとんどしていない。エミの家庭環境が複雑っぽくて、俺が避けていた。


 オナホの話のついでにサラッとふれられたのはよかったかもしれない。



 ただ、元の世界に残されたオナホ……。


 『とろとろ♡きつきつ♡妹ホール♡♡』


 って商品名なんだ……。

 過去の俺、興味本位でそんなヤバいの買ってんじゃねえよ……。


 俺は死んだ。社会的に。たぶん。


✳︎


 エミのおねだりのフリはつづいた。


 アメリカンジョークに、カナダCanadaの首都を質問されてCって答えるネタがある。オタワじゃないんかい! あ、首都capitalやなくて頭文字capitalかい! WAHAHA! っていうヤツ。


 なーにがおもろいねん。オヤジギャグかい。さっむ!


 と言わずに話に仕上げる。


 バカでボンボンの主人公。

 カナダの首都、オタワに住んでる。

 親が会社の面接中、コネで合格させたいのにあまりにおバカな回答が続いてしまう。

 サービス問題で聞かれたカナダの首都にCと答えて周りはズッコケる。


 話としては一応は成り立つか?

 日本語話者の俺にはまったく面白くないが。


 そう。言語の壁がある。


 怨念がおんねん。

 これを使って話を作る。


 怪談をはじめる主人公。

 墓場を肝試しで遊びに行く恋人たち。

 彼らにとっては墓場も怪談も怖くない。

 墓に手をついて立ちバックでヤリ始める。


 闇夜の墓場に響くパンッパンッという音。


 最高に盛り上がっているところで、かすかに人の声が聞こえる

 誰だ? だが人影はない。

 焦る2人。大きくなっていく不気味な笑い声。あわてて服を着て、駐車場に引き返す2人。やっとのことで車に乗り込んだ。エンジンをかけようとするが掛からない。


 そこで、突然。


 背後から肩に手に置かれる手。

 誰もいないはずの車内。

 振り向くと。


 怨念がおんねん。

 わからない?

 だからさ、怨念おんねんが、おんねん。


 一応、話として成り立ってると思う。

 でも、これはエミにしてもウケない。


 言語の壁があるのだ。


 なぜか俺はこの世界の言葉も話せるようになったけど。ほぼネイティヴ。言語習得のために、犯罪奴隷と相互読心魔法を使わされたからな。おかげで言葉遣いはかなり汚い。

 ずっと一緒にいるエミまで言葉が悪くなっていってるので、アリアには小言を言われてる。



 定期的なお馬さんのもぐもぐタイム。

 エミはトイレに行った。女はトイレが近いよな。尿道を締めつける筋肉が弱いから、すぐに出そうになるそうだ。


 寝てるアリアとふたりきり。

 いや、何もしないぞ。


 痴漢は犯罪だ。

 視姦はまあ、いいか。

 共犯者らしいし。

 どうせ今、寝てるアリアを見ててもバレない。完全犯罪だ。


 馬車の揺れとともに視界の端で揺れていたおっぱい。本能で目がそっちに向きそうになるのを、何回むりやり前に向けたことか。


 ふと気づく。

 アリアの寝顔、見るの初めてだな。

 こうして見ると、寝顔はひどく幼い。まだ子供だ。


 普段の聖女じみた神聖さとか神々しさみたい空気も、寝てる間は発していないらしい。まあ、演技か。染み付いた演技。


 聖女として祭り上げられた少女。生け贄みたいなもんか。魔力は人族最強だけどな。


 洗脳されていた間、俺は見ようともしなかったが。洗脳を完全解除された今、やっと等身大のアリアに目を向けられそうな気がしてきた。

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