アリア攻略編8 勇者の試練

「いいだろ?」

「ダメ」

「何でもするからさ」

「ぜったいダメ」


 エミは召喚初日にアリアから俺に課せられた洗脳の中身を知っている。拝み倒しても、そっぽを向いて教えてはくれないが。

 それでも頼んでいると、くるりと俺に向き直った。


「あのさぁ。わかってる?

 マコトがその気になったら、魔力1のニンゲンなんか全員操れちゃうんだよ?

 洗脳解こうとか考えないで大人しくしてて。アリアも変な命令してないからさ。

 マコトは猛獣みたいなモノなの。必要なの」

「ケモノじゃねぇし。襲うぞ」

「んーん。首輪が付いた猛獣だよ。

 むしろ魔王! 完全に!

 あたし、イヤだからね?」

「何がだよ」

「マコトが殺されちゃう。あー、もぅ。おしえなきゃよかった」


 シーツにくるまりイジケだした。女がこうなったら男は抱きしめて撫でてやるしかない。細い肩だな。今日は抵抗が強いが無視。こんなに細い腕で俺に敵うはずがない。


 ふと、自分の左手首が目に入る。俺は左手首の時計をするあたりに小さなが3つあった。確かにそのはずだった。今は2つしかない。いつの間にか消えていた。残りの2つを毎日観察しているが、徐々に小さくなってきている。

 これはどうでもいい変化だが、傷の治りが速くなったのは間違いない。蟻との戦闘で傷ついても、一晩寝て治らなかった傷がなかった。俺の体はだんだん人間離れしつつある。


 元の世界に戻る希望がまた1つ遠くなった気がした。





 この世界に来てから、何度でもできるようになった。これも魔力の影響か。念じれば水が出るんだからな。体液も関係あるか。


「なんか10才若返った気がする」

「マコトなら100年は若いままだよ、きっと」

「はあ?」

「貴族はあんまり老けないよ。魔力あるし」


 マジか。


「元の世界よりずっといいな」

「んふっ。そう?」

「もう帰れなくてもいいかな」

「…………やった」


 小さくガッツポーズするエミ。見えてるし聞こえてんだよ。どうでもいいけど。もう機嫌を直したのか、チョロすぎる。




 アリアを想いながらエミを抱いている間、ずっとアリアを殺す方法を考えていた。


 貴族を害するな。魔王を殺せ。アリアに従え。アリアを愛せ。


 この条件下でアリアを殺す。

 絶対に協力者が必要だった。


 洗脳により貴族に危害を加えられない俺がアリアにトドメを刺すのは不可能だからだ。


 俺はいずれ洗脳の魔法に身を委ねようと思う。アリアを深く愛する。俺の邪悪な本性は、愛ゆえにアリアを犯し、アリアを無力化するだろう。そんな人間にならなくてはならない。


 そしてエミには、俺に依存し、俺を求めて、アリアに嫉妬し、恨みに恨んで、殺してもらわなければならない。そこまでエミの愛を、泥々に融け堕ちたナニカへと育て上げる必要がある。


 条件が厳しすぎるな。


 勇者に課される試練というものは、いつだって過酷なものなのかもしれない。

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