エミ攻略編9 エミの攻略
「なあ。なんかおもしろい話をしてくれ」
雑すぎるフリ。
たまには俺もしてみることにした。
「うん、わかった!」
エミのあかるい返事。
むーとかうーとか言いながら、エミは話のネタを楽しそうに考えてる。
素直すぎかよ。
「あ! 思いついた! これ知ってる?」
「なんだ?」
「クイズです! 勇者を召喚する日をいつにするか、どうやって決めたでしょう?」
「うーん。まったくわからん」
そういや地下室で俺主催のクイズ大会もしたな。マネしてきたか、おもしろい。
アリアが何を基準に召喚の日を選んだか。
あの時、俺は恋人と遊園地でデートしていた。そして意識をうしない、あの地下室でめざめた。恋人から見たらパッと幻のように消えたのか、闇的なものに飲み込まれたのか、どんな感じだったんだろうか?
これはエミに聞いてもわからないだろうな。
エミの心を攻略し、アリアの洗脳を解いて、元の世界にもどる。それから恋人に聞けばわかる話だ。別れも言えなかった恋人は、今何してるだろうか。
母親も、何をしてるだろう。俺には父がいない。
2人は、元気だろうか。
思考が脇にそれた。クイズの答えを考える。
うーん。
やはり
「
「ぶっぶー。グランドクロスってなに?」
ハズレか。
「降参だ。答えをたのむ」
「わかった!」
「じゃかじゃかじゃかじゃじゃかじゃか」
ためるなぁ。
「じゃかじゃかじゃかじゃじゃかじゃか、じゃーん!」
めっちゃためるじゃん。
「せいかいはーーーーーーーーー?」
「勇者召喚は私の生理あけだったの!」
「えー……」
「やっぱ緊張しちゃってさー。ふだん30日でくるんだけど、4日もおくれたの!」
「マジかー……」
生理で召喚されたり召喚されなかったりする勇者。そんな勇者イヤすぎる。
もう滅べよ世界、と口に出かけた言葉を飲みこんだ。
「100年に1度の星の並び! グランドクロス! とかがよかった」
「にたようなもんだよ!」
絶対ちがう。
「それでさ、そろそろできやすいんだよね」
「なんの話だよ」
「……あそこからでるあれとかけっこーあったし、できやすいとおもう」
「あぁー……」
「えへへ。しちゃったね!」
エミのあかるい声。
そのおかげで、ウソにまみれたこの俺の邪悪な心まで浄化されてく気がする。
エミの声はいつもやわらかい。
こんな俺を受け入れてくれる。
この声にいつも救われている。
覚悟を決める時かもしれない。
11日目の朝になっても見えない魔力。
なぜか何も感じられない。
本当は、原因はわかっていた。
拒絶しているからだ。
受け入れようとしていなかったからだ。
俺の心が
この世界を。
エミを。
今の自分を。
覚悟を決める必要があった。
「エミ。聞け」
「うん」
「俺の本当の名は██████という」
「……うん」
俺が異世界に持ちこめたものはなかった。
何もない。
今も何も持ってない。
召喚されたあのときと同じ全裸だ。
持ちものといえば、床に転がる服と剣。
他に何もなかった。
何もない。
エミにあげられるものは。
「俺の魂の名だ」
「……うん」
「他の誰にも言うな」
「……うん!」
「結婚する相手に1度だけ伝えるものだ」
「うぐぅ……。うん! うん!」
「泣くな」
だからウソをあげよう。
心を込めたウソを。
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