エミ攻略編8 勇者は笑う

 親からも魔力を受け取ってしまうなら、魔力を持たないならば、魔力を持たない人間は存在しない。


 だが、異世界人を召喚すれば魔力の入れ物は空っぽだから、交わった女の魔力に一気に染まる。波長が同じため、なんかスゴい効果が得られる。


 うーん、筋は通ってるのか? よくわからん。


「とりあえずわかった」


「さすがだね。マコトの魔力のいれものも、もう閉じてるはず。すぐ魔力も感じるようになるよ」


「楽しみだ」


 結局はそれ待ちか。魔力の感知ができるようになれば今の話の真偽もわかるかもしれない。







 ベッドに沈むエミのしなやかな肢体を見下ろしながら、腰まである髪がベッドの上に広がっているのを踏まないように注意し、ゆっくりと、動いていく。


「あっ。あっ、いたっ」


「すまん」


「い、いたっ。まだ乗ってる! そこの髪! ああっ」


 踏まない場所がないぞ。ここまで髪が長いと面倒だな。気が散る。



 最初の7日は魔力の受け渡し以外にも、未知の病気が勇者の世界から持ち込まれるのを防ぐ、勇者の傷を癒やして冒険をサポートする、勇者の子を産んでその貴族に箔をつける、そんな目的もある。想像をめぐらす。


 もうひとつ思いついた。裏切り防止だ。


 勇者は魔力が異常に高くて、魔王暗殺のための強力な兵器だとすれば、不測の事態によって洗脳が解ける可能性を考えて、首輪や鈴はいくつあってもいい。


 エミは俺に捧げられた生贄いけにえみたいなものだ。かわいそうな女だ。そんな俺の感情さえ利用する。


 従順で美しい女を与えられれば男は懐柔される。情も湧く。いずれ愛するかもしれない。そのうち子供ができる。人質が1セット、めでたく完成する。


 なめやがって!


 神経がたかぶってる。今夜は寝られそうにない。







 エミの寝息を聞きながら、暗い部屋の中で、冷え切った思考だけが高速で回転し続ける。何か引っかかる。もう少しで何かに気づける予感があった。


 そして、天啓を得た。


 なぜ、召喚してすぐ洗脳した?


 言語習得は仕方がない。だが、飲み水も魔法でうみだし、魔力を遮断した地下室まで用意し、エミの純粋な魔力だけで俺の魔力の入れ物を満たすのならば、洗脳の魔法だけはムダに感じられた。効率的でない。


 魔力を高めてからでいいはずだ。なのに地下室から出る時に洗脳しなかったのは、なぜか。


「部屋を出る時では、あらたな洗脳はかけられなくなる……のか? 魔力が高すぎて」



 ────光が見えた気がした。

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