エミ攻略編7 エミの告白
「ねえ、おもしろい話して」
雑すぎるフリ。エミの口ぐせである。
俺に与えられた居室のベッドで、2人とも汗だくなので、離れて天井を見上げて寝転んでいた。適度な運動で体が気だるい。このまま寝そうだった。
床を見ると、たがいに脱がしあった服が散らかっていた。流星剣も。服はまだしも、宝剣のこの扱いはマズいのかもしれない。
エミは魔力とか勇者といった、さっきの話の続きはしたくなさそうだ。仕方がない。適当なことを話すとしよう。
「レシピの本を書こうと思ってる」
「なんで?」
「ふるさとの味を子どもたちに伝えたい」
「……気が早いよ?」
「そうでもないだろ」
これだけやればできるだろ。俺は"やればできる子"ってよく言われたし。
「その前にわたしにつくってよ」
「ムリ」
「ひどっ!」
「うっせーな。いそがしいんだよ」
食材も調味料も調理器具もないから再現できる気がしない。
「もう。それでどんなのがあるの?」
「1個目はザンギかな。鳥肉に下味付けて揚げたヤツ。食感はザクザクで味はジューシー」
ぐー。好物の話をしていると晩飯抜きの腹が鳴った。はらへったなー。
「おいしそう! 他には?」
「2個目はチャンチャン焼き。開いた魚に調味料をのせて炭火で焼くんだ。食感はホロホロで味はジューシー」
「じゅるり」
食レポはジューシーだけでなんとかなるよね。
「3個目はイクラ丼。魚の卵を生のまま調味料に一晩漬け込んでご飯にのせる。食感はやわぷちとろ〜って感じ。味は濃厚で、甘さ5の、旨味4の、塩気1って感じ」
「え〜、食べたいっ。ゴハンって?」
「いつも食べてた穀物。麦みたいに挽かないで、少しの水で煮て粒を残すんだ。ツヤツヤ光るから銀に例えることもある。話してたら懐かしくなってきたな……」
蟻退治の時にアザミに近い雑草も見た。植生は元の世界と異常にかけ離れてはいないようだが、この世界にいる間は炊き立てのご飯のことは忘れよう。ぐー。
そもそもこれは、雑談にかこつけた"食生活でガマンしてるよアピール"だ。今日はこの程度でいいが、定期的にしていく。
純朴なエミの性格につけ込んで、いくつか要求をとおせればそれでいい。仕込みの話題にすぎない。
エミは何を考えているのか。ずっと黙ったままだった。
◆
「覚悟ができたよ。なんでも聞いて」
「ん、んんっ? なに?」
俺は完全に寝かけていた。よだれをぬぐってエミに顔を向けると、熱量を感じるほど赤い瞳が俺を見つめていた。
「さっき、話そらしてごめんね」
「なんの話だよ」
「だから、魔力とか。勇者とかの話」
「その話か。知らないことばっかだし話せることだけ教えてよ」
「うん。さっき爆発するって言ったけど、あれウソだから。ごめんね……」
「いいよべつに」
「あたまがカーッてなっていろいろ言っちゃった」
やはり爆発うんぬんはウソか。
「平民はうっすらとしか魔力をもってないからね。平民が1とすると、私は100はあるかな。もっとかも。比べられないや」
「強い魔力をもつのは貴族だけなのか?」
「うん。魔力の量は親次第だから」
魔力は遺伝するのか。それじゃ貴族による封建制が永遠に続くだろう。
「平民と貴族の子供だと魔力は半分くらいになる感じか」
「さあ? 魔力量に差があると子供ができづらいらしいけど」
貴族と平民の血は混じりづらそうだ。そして段々と貴族の血だけ濃くなっていく。
「魔力100男と魔力200女の子供だと、魔力どれくらい?」
「うーん。たぶん180から200? 男女逆なら100から120?」
女の魔力が重要か。女の地位が低くない世界になりそうだ。超高魔力の男がいてもハーレムにはならなそうだな。子種をバラまくと次世代で近親相姦になって詰む。
「例外もあるよ。さっきのが
「血が濃くなると、魔力が跳ね上がるのか……」
あまり広げたくない話になってきた。近親相姦の4文字が頭に浮かぶ。そして勇者が必要になる理由も理解した。
「その表現はすこし違うかな。魔力の波長が近い者同士だと、子供の魔力が跳ね上がるの」
……勇者とは、血が離れていて、魔力の波長が近い、理想の婚姻相手なのか。
「私とマコトの子供! たぶん魔力がスゴいことになるよ!」
「………………ああ」
なんとか笑おうとした。俺は笑顔がかわいい。今、笑えているだろうか?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます