エミ攻略編6 勇者の秘密

 『勇者は女の魔力を吸って殺す。エミは魔力が枯渇し死にかけてる』という噂が流れているという。


 勇者ってヤッた女の魔力の吸うの? マジで? それもう勇者じゃないだろ。淫魔サキュバスじゃん。


「エミは寝込んでるのか」

「清掃担当の同僚メイドから聞きました」

「確認済みか。魔力の枯渇で死にそうなのはあくまで噂か」

「はい」

「どっちかな……」

「何かおっしゃいました?」

「いや別に」


 噂の出所だ。アリアか従者のどちらか。魔力関係はよくわからないので横に置く。


 アリアが噂の出所なら、俺に他の女を近付けたくないということか。……別にそんな感じはなかったんだよなぁ。俺に命令すりゃすむ話だし。


 従者たちのただの噂か?


「あ、あの! 私は噂を否定して回った方がいいんでしょうか?」

「要らん。擦り寄って来る女は好かん。女は花だ。俺が好きに手折る花。ただそこに美しく咲いてろ。ん? これでは噂通りか。ははっ」


 エセ貴族ムーブを続ける。ミアの瞳を見て言ったらなんか刺さったっぽい。見つめ返してくる。貴族のフリは効果絶大だなぁ。……もう1回いっとくか、と思ったその時。


 コンコン


 ノックの音。飯は不要と伝えたが、なんだ? 答えずにいるとそのままドアが開いた。


「マコト……? あれ。いるじゃん」


「エミ。1日ぶりだな。体調はもういいのか?」

「正直あんまり……。マコトは、元気があまってるみたい」


 ちらりとミアへ視線を向けた。どういう意味だよ。ミアがあわてて頭を下げて出て行こうとしたが、エミに呼び止められる。


「のこりなさい」


 そして俺をにらんだ。エミの態度が過去1悪化しているな。2人きりになっただけで浮気を疑うタイプか。疑わしきは罰せずの精神を身につけてほしい。


「エミ、ちょうどよかった。聞きたいことがある」

「なに?」


 声にトゲがあるが気にせず続ける。女のご機嫌取りは、やりすぎたら逆効果になる。それならしない方がマシだ。


「俺って、女の魔力を奪うのか? お前が倒れたのって、そのせいなのか?」


 目を細めて俺とミアを交互に見てから言った。


「うん」


 マジか。







 ショックから立ち直るのにしばらくかかった。


「勇者はばれて10日くらい、人の魔力をっちゃうんだよね」

「マジか」

「それで一緒にいてあげた感じ。あと、貴族の清らかな乙女には神の加護があって抱けば魔力が高まるんだよね。その相乗効果で勇者を強化してたんだ」

「マジか」


 ショックから立ち直るのにまたしばらくかかった。


「マジだよ。みんな知ってるよ。ねえ?」

「……はい。おとぎ話では、お姫様と結ばれた王子様は、願いごとが叶います」

「マジか……」


 明かされた情報が多くて、さっきから語彙力が死んでる。


「何から話そうかな」

「……そもそも魔力ってなんなんだ?」

「そこからだね」


 ずっと疑問だった。


「えっと。この世界の人間って、体の奥底に魔力のいれものがあるんだ。いれものの中の魔力は、生まれる前から親とか周りのものに影響されちゃうんだよね。人間だけじゃなくて、空気や食事とかも様々な波長の魔力を持ってるの。すでに独自の波長の魔力を持っているから、貴族の乙女から魔力を受け取っても波長の違いで効果は本当はそこまで高くないの」

「なるほど」


 前提として、魔力は貴族しか持ってないのかな? 話の腰は折らずに後で聞くか。


「勇者のいれものは、初めは魔力が空っぽなの。あの部屋みたいなところでしばらく注ぎ込み続けると、いきなりあふれ出すんだ。混ざり合う魔力が同じだから起きる奇跡なんだと思う」

「あふれ出す……? 今も?」

「うん。感じないの?」

「全く」


 首を振る。魔力など感じたことはない。どんな感覚なんだ。


「そっか。そのうち感じるから大丈夫。それよりさぁ。マコトの中は私の魔力で満たしてるから、他の人の魔力が混じったらタイヘンなんだよね。ミア、マコトとエッチなことした? 混ざったら爆発して死んじゃうかも」

「えっ!?」

「してないぞ」


 顔面蒼白のミア。素直すぎる。絶対ウソだろ。俺の完璧なリアクションが台無しだった。


 ミアを残した目的はカマかけのためだったか。間抜けは見つかったようだ。







「大体わかったよ。もういいから出てって」


 エミはミアを追い出したが、俺は止めたりしなかった。謎の貴族キャラでいるのも疲れたし、エミが今まではぐらかしていたことをやっと話した。口の固かったエミが。


「……帰しちゃったけど何も言わないんだ」


 明らかに不機嫌だった。2人きりになってさらに。エミは嫉妬に燃える赤い瞳で俺をにらんでいる。立ったまま正面からエミと向かい合うのは初めてかもしれない。長くきれいな銀の髪が、スリムな体のラインに沿ってウェイブしている。


「もともとエミの代わりだ」

「……っ! そんなこと言ったって機嫌直したりしないんだからねっ!」


 ツンデレかよ。誤解があるみたいだし解いておく必要がある。


「あの従者メイドは銀貨100枚で部屋に呼んだだけだ」

「お金払ってるの!? あの娼婦メイドめ……」


 言って気付いた。空手形が、エミに小遣いをもらわないと不渡になってしまう。ヒモみたいだが仕方ない。金がない。


「まだ払ってないんだ。エミ、頼んだ」

「私に払わせるの!?」

「頼むって。なんでもするから」

「しょ、しょうがないなぁ……」


 さすがにチョロすぎるだろ。エミの将来がすこし心配になった。


 勇者の話。魔力の話。どちらも従者メイドのグチより1万倍聞きたい情報だ。興奮がおさえきれなかった。思わず鼻息も荒くなる。


「それよりさ、早く続きを」

「もう。たった1日で興奮しすぎ。ガマンできなくなっちゃった?」

「ちげーよ。8日も魔力吸ったから倒れたのか?」

「フラフラだし、ちょっと痛みもあるから昨日は休ませてもらっちゃった。もう大丈夫だよ」

「ムリするなよ。横になった方がいい」

「うん。でも同じベッドはヤダ。私の部屋にいこ?」

「なんの話だよ。待てない、ここでいいだろ」

「うん……いいけどさ」


 エミが顔を赤くして抱きついてきた。目を閉じているのでキスをしてやるが、魔力の話はどうなったんだ?


「話は後にするか……」

「なんの話? 私の話、ちゃんと聞いてる?」


 俺のセリフなんだが。


 仲直りックスは最高に気持ちがいい。落として上げるゲインロス効果で。気を取り直して集中することにした。すっかり俺に馴染んだこのカラダに。


 このあと滅茶苦茶"仲直り"した。アリアの顔を思い浮かべながら。

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