暗夜行使
彼等は蒼白き鬼火を道標に夜を行く。
帝国時代、貴族達に拝領された領土を密かに回り、監視を行う者達がいたという。
一夜にして領一つを踏破し、その力は一騎当千。私心なく、体はただ帝国皇帝に奉げられたと伝えられる。
それゆえに、その心は如何なる誘惑にも揺らぐ事なく、その身は如何なる困難であろうと打ち砕く。まさしく皇帝の定めし法の名の元において砕ける事のない正義の剣。
剣の乙女や、硝子の森の眠り姫と同じように様々な物語の題材とされ、子供でさえその名を知るというのに、記録としては彼等がどのような存在であったのか如何なる書物に記されてはいない。いや、ない訳ではないが、その本自体が所在のはっきりとしない御伽噺めいたものであるのだから、ないと言ってしまって差し支えないだろう。
故に彼等はただ途切れることなく人伝に語られ、漣のように人々の間を渡り歩く。実際に存在したのか、それともしなかったのか。伝えられる物語にその痕跡は見られはするが、そうであると断定するだけの根拠足りうる程のものではない。
帝国が噂を流す事で作り出した民衆の不満を逸らす為の虚像だと言うものもいる。魔術師達が作り上げた『力』で動き続けるからくり仕掛けの『ひとがた』だと言うものもいる。
浮いては沈むそれら全てがまた、彼等の物語として構成され広がっていく。
故に、彼等は存在すると言えるのか。
夜を疾る仄明るい白き耀きが現であるのか幻であるのか、私には判断のつかない事なのだけれど。
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