幻燈霧
その峠には常に白い霧が渦巻いている。一人の魔術師が大いなる実験に失敗したからだとも、神滅戦の余波によって何かが狂ってしまったからだとも言う。真相は依然として判然とせず、文字通り霧の中をさ迷ってはいるが……。
ただ、それだけであれば大陸の中に似た様な場所が幾つも存在する。有名なものでは霧柱湖とも称される湖や、やはり神滅戦の余波により何処からか霧が湧き出る事となった街がある。共に晴れる事のない霧に被い尽された白く閉じられた場所だ。
その中でこの峠の霧が他と一線を駕するのは、霧に巻かれたものに幻を見せる、この一点に尽きる。
幻、あり得たかもしれない未来であり、変えたいと願う過去だ。それは、記憶砂の見せる想い出よりも甘美で、酷く誘惑的だ。故に、魔術師達によって厳重に封鎖されている。人が近づかぬ様結界が張られ、霧を晴らす懸命の努力が続けられている。
それでも、白い霧は結界から滲み出て、惑わされる者が出る。どれほど厳重な、十重二十重の結界が張られようと。それは仕方がないのかもしれない。人の弱さを考えるならば。
どうやら私も惑い込んでしまったようだ。
湿った霧が体を追う。今とは違う時間を作り出す。あの場所であのまま君と時を過ごしている自分が見えた。
私は目を閉じる。
霧が囁く、お前の望んだ時だと。
私は目を閉じたまま、幻に過ぎないと自分に言い聞かせた。
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