白き花々

 その丘の上に立つと風が髪を撫ぜていった。大地から空へと上っていく風だ。

 そして、風に混じるのは甘く、何故か切なさを感じさせる花の香だ。それは眼下に広がる花々から生まれている。


 白い、本当に混じり気のない純白の花は、風に揺られてさざめいていた。視界一面を埋め、地平の果てまで続く白の絨毯は荘厳とさえ言える。

 きっとこの花が弔いの花だからだ。

 本来この花は瑠璃の如く薄い花弁に緋色を宿す。

 死の匂いに満ちた土地にのみ根を張り、流された血と、うち捨てられた屍を養分として真紅の花を咲かせる。それは年経る毎に色褪せ、薄れ、浄化され長い時間をかけて純白の花へと姿を変える。そして、一年、純白によって大地を覆い尽くした後一斉に実を結ぶのだ。

 実はやがて熟し、綿毛をつけた種を飛ばす。風に乗り、種はまた何処かの土地へ辿り着き、そこに死があったならば根を張り花を咲かせる。それをずっとずっと繰り返す。


 今ではこの名もない弔い花が群生する場所も少なくなってきたというけれど、それでも私の目には沢山の白い花が映る。過去の大きな戦争の名残であり、償いであり、忘れてはならない楔であるように思える。

 今は大陸の歴史の中で争いのない極めて平穏な期間だと歴史家達に称されるが、もし本当にそうならば、いずれきっとこの景色を目にする事もなくなるに違いない。

 それはとても幸いな事のはずだけれど、何処か寂しいと感じてしまうのは、私の我侭だろうか?

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