金色の原

 陽光の色が変わった。私は言葉を失い立ち尽くす。大地と空の間まで続く地平総てが黄金色に染まっていた。その只中、黄金の野原で舞うのは『流浪の民』達だ。

 かつて、定まった場所を持たず、大陸を彷徨う様に旅する流浪の一族がいた。彼らは一所に二節と留まらず、吹き行く風のように、巡る水のように大陸を廻ったという。様々な場所の物語や技術、食材を携えそれと引き換えにまたその場所特有の何かを手にする。そうして、また別の場所へ居を移すのだ。

 そんな彼らもやがて交通手段の発達により大陸内の交流が盛んになると、まるで存在意義を失ったかとでも言うかのように一つの場所に留まり、その土地の人々の間に混じり馴染む者が増え、徐々に姿を消した。それでも、昔のように大陸を流れ続ける末裔たちが少数ながら存在する。自由だからと答える者がいる。世界を廻るのが楽しいからだと言う者もいる。ただ、必ず口をそろえるのは、誇りがあるということだ。


 様々な文化を抱え込む彼らをしても、たった一つだけ彼らにだけ伝わり、彼らしか目にすることのない儀式がある。

 子供が生まれた時、よく晴れた日を選び、彼らは荒野で輪を作る。その真ん中に新たに仲間となる赤子とその子の健やかな成長を願って作られた人形とを共に並べ、祝うのだ。

 歌い踊り喜びを顕わにすると荒れた原野は姿を変える。世界までもが祝福しているかのように黄金に染まる。その耀きはどこまでも続く。

 金色の野原で踊るその姿は限りなく神聖。

 命の誕生と成長を願っているが為に冒し難いまでに荘厳。

 その輪に混ぜてもらえたことを有難く思いながら私も願いの歌を詠う。

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