砂の城

 この城は生きていると評した学者がいる。

 確かに異端の説ではあるけれど風化という万物に等しく降り掛かる時間の流れに抗しているという意味では生きているといってしまっても良いのかもしれない。目の前にそびえる時を感じさせな城を見上げているとそんな事を思う。


 この城が作られたのは今から五百年前、神滅戦の後大混乱に陥った大陸全土を初めて統一する事になる『帝国』が台頭を始めた頃になる。当時『帝国』は、大陸統一の足がかりとしてこの地に急遽城を構える必要に迫られていた。

 しかし、人員の確保、築城資材の調達など様々な要因により築城は困難を極め、且つ『連合』を結んだ国々の抵抗もあり、自国への一時撤退さえ囁かれ始めていた。そんな折りにその魔術師は現われ、ただ一つの約束を結ぶ事を条件に手助けを買って出たのだという。

 果たして魔術師は、僅か一日で城を作り上げた。それも、何処にでもあるただの砂を用いながら、大砲の連撃にさえ耐える堅固な城を。

『帝国』軍はその城を拠点として見事『連合』軍を打ち破りそれから僅か十年足らずで大陸全土の掌握を果たした。


 魔術師がいかなる術を持ってしてこのようなことを可能としたのか、多くの学者たちの頭を悩ませている。その謎を解く鍵だと目されているのが城を支える要柱、その表面に浮き上がりつつ文字だ。

 ここ二百年ほど前から現れ始め、今ではどうにか判別がつく物も含めて三十二個の文字が確認されている。全ての文字が均一に現れるのではなく何の規則性もなくまちまちに浮き上がる為、未だどのような内容であるのか皆目見当もついていない。

 今も、徐々に徐々に文字は浮き上がりつつあり、予測ではあと百五十年もすれば全ての文字が現れるか、文章として判別できるだけの数が揃うという。

 その文章は、『帝国』の王と魔術師が交わした約束だとも、一夜で砂の城を作り上げる方法を記したものだとも言われるが、本当は一体何が刻まれているのだろうか。

 残念な事に、答えは時の流れの先にあり、私たちに知る術はないのだけれど……。

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