奏音都市
その都市は眠らない。常に何処かで、音楽が奏でられ、歌が紡がれ、役が演じられる。
尖塔を中心にして同心円に劇場が建ち並び、いくつもの広場と主幹道路が交差する。広場では、役者の卵や吟遊詩人たちが己の技を披露し、磨きあう賑やかな都市だ。そして、彼等はいつか尖塔の下にある大劇場の舞台に立つ事を夢見る。
この都市の基礎となったのは小さな劇場だ。戦火によって焼け出された七人の劇団員達が立てた掘っ建て小屋にはいつしか似た様な境遇の者たちが集り、役者達の寄り合い所帯を成していく。そして、数年の後、大陸全土を覆った争いの炎が消えた時、小屋を中心に一つの街を形作っていた。
その中で、争いに疲れ、悲しみに暮れた住人を慰め励ます為に役者達はたった一つの演目を上演する。それは、人が何処まで優しくなれ其処まで強くなれるのだと自ら示した英雄の物語だ。誰かの為に決して迷うことなく己の持てる力の全てをふるった偉大な男の物語だ。荒廃の中に希望を、絶望の中に光を与えた誰もが聞いた事のある昔語りだ。
役者達は全霊を懸けてせめて男の半分でも希望を示す事が出来ればと、演じた。それが届いたのかどうかは実際に彼等の劇を目にしたものにしか分からない。けれど、街に人は集い、都市へと規模を大きくしていく。それが何より雄弁な『答え』だろう。
今では、小屋の跡に『始まりの七人』を称えた大劇場と尖塔が建てられ、都市の様相は大きく変わったけれど、役者達の想いは消えていない。
彼等に憧れ、彼等を目指す若者達が都市の其処此処で途絶える事なく、夢を奏でる限り…
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