天象儀

 暗闇の中小さくその音は響いていた。歯車が噛合い、螺旋が軋み、発条が刻む機構の立てる音だ。

 その音に合わせるように視界に映る光景は刻一刻と様相を変えている。

 天蓋を被う漆黒に零れんばかりの瞬きが散りばめられている。遠い土地の夜空を再現した機械仕掛けの耀き。

 星空だ。


 ゆっくりと星がその配置を変えていく、数々の物語を持った空の絵画が入れ替わり立ち替わり顕われては、消えていく。造り物であると分かっていても体が震えるのを止める事が出来ない。この辺りでは決して見上げる事のない青い星が中天にある。

 ここにあるのは懐かしい星空だ。

 耀きが滲む。見上げていられない。耳を澄ませば、神楽舞の清んだ歌声さえ聞こえてきそうだ。


 百年前に生きた技巧師は何を想い、この夜空を『力』の介在なく動作するように造り上げたのか。空は何も語らず、記録はなにも残っていない。あるのは、風と光を受けて遠い夜空を再現する技巧だけだ。けれど、そこには何かが残っている。

 それが望郷の念か、故郷への決別か、その全てであるのか、あるいはそのどれでもないのかは、誰にも分からない事だけれど。

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