天象儀
暗闇の中小さくその音は響いていた。歯車が噛合い、螺旋が軋み、発条が刻む機構の立てる音だ。
その音に合わせるように視界に映る光景は刻一刻と様相を変えている。
天蓋を被う漆黒に零れんばかりの瞬きが散りばめられている。遠い土地の夜空を再現した機械仕掛けの耀き。
星空だ。
ゆっくりと星がその配置を変えていく、数々の物語を持った空の絵画が入れ替わり立ち替わり顕われては、消えていく。造り物であると分かっていても体が震えるのを止める事が出来ない。この辺りでは決して見上げる事のない青い星が中天にある。
ここにあるのは懐かしい星空だ。
耀きが滲む。見上げていられない。耳を澄ませば、神楽舞の清んだ歌声さえ聞こえてきそうだ。
百年前に生きた技巧師は何を想い、この夜空を『力』の介在なく動作するように造り上げたのか。空は何も語らず、記録はなにも残っていない。あるのは、風と光を受けて遠い夜空を再現する技巧だけだ。けれど、そこには何かが残っている。
それが望郷の念か、故郷への決別か、その全てであるのか、あるいはそのどれでもないのかは、誰にも分からない事だけれど。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます