百奇夜光

 光が乱舞している。無数の色鮮やかな光だ。

 赤、青、黄、橙、白、緑、黒、紫、蒼、紅、銀、玄、雪、金、藤、藍、紺、碧。ありとあらゆる色が形を変えながら明暗を繰り返している。

 それを離れた場所から見つめる人々の表情も、悲しげであるし、嬉しげでもある。後悔の色もあれば、感謝の色もある。煌く光と同様に千差万別、一つとして同じ物はない。多分、私が浮かべる表情も、また……。


 数年に一度、遺された、忘れがたい想いが月の輝きよりも明るく、幻光の舞よりも鮮やかな光となって顕われる。行き場を失い溢れ出した懐かしい想いは、一晩中空を舞い、風と共に踊る。そして空が白む頃になると何処へともなく溶け込み消えてしまう。

 どこかにある想いの仕舞い込まれた小さな匣の中に帰るのだと言う。魂が逝くここではない何処かへ向かい、先に行った者達を慰めるのだと言う者もいる。

 光は何も語らない。ただ気ままに闇の上に鮮やかな軌跡を描いていくだけだ。

 人はそれを見る。触れる事は叶わない。いや、目にするだけで十分なのかもしれない。それだけで、蘇るのだから。熱く、冷たく、苦く、辛く、温かく、かくも懐かしい忘れがたい、或いは封じ込めてしまいたい想いが蘇るのだから。


 だから、遠巻きに見守る。夜が明けるまで離れる事がない。私も、想いを忘れぬよう光をしっかと瞳に焼き付ける。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る