竜蛇の吐息
一生の殆どを海上に浮かべた筏の上で送る海の民でさえ深く恐れ敬い近づく事のない海域がある。
そこは、無数の暗礁が海中に潜み、一見穏やかだが水面下では複雑奇怪なまでに細かく枝分かれした海流が引き合い絡まり縺れ合いながら渦巻いている恐るべき場所だ。
けれどそれは、潮の流れを読む事の出来る海の民にとって禁忌となるほどの驚異ではない。
不意に何の前兆もなくいきなりに、そして決して一日とて休まる事のない海中より噴き上がる水柱。それこそが彼等の恐れるものだ。
潮の流れとも風の動きとも関係なく、まるで海の持つ悪意その物であるかのように船を狙うそれは、彼等の操船技術を持ってしてもどうしようもなく,海に投げ出されれば後は潮の流れに飲み込まれ藻屑と消えるだけ。
故に彼等はこう伝える。
その海域には、滄竜の王が住まうのだと。
眷族たちが集う楽園であると、命尽きる時、終の安楽を得る為に辿り着く場所なのだと。
それを守る為、潮の流れが絡まり合う水底深く、蹲る王は深く長く呼吸をする。そうして生まれる水泡が水面近くで弾けて水柱を生むのだと。
だから、人が立ち入ってはいけない聖域であると彼等は伝える。
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