記憶砂
白亜の塔の魔術師達が管理する砂漠の砦から程近い砂漠の一角に白砂の生まれる場所がある。まるで湧水のように地下より沸き上がり時と共に色褪せていく砂を一つまみ瞼の上に振り掛けると懐かしい景色を見る事が出来る。それは、白砂が世界の記憶の欠片だからだろう。
歴史という名の世界の記憶は私たちには知りえない何処か遠い場所で積み重なっていくのだという。そして入り混じりながら圧縮され硬く揺るがぬ岩となり、風化を始め微細な砂になる。それはやがて行き場所を失い、今目にしているように地上へと吹き出すのだ。その理由は全くの不明だけれども、吹き出したばかりの白砂が記憶の欠片であるのは確かな事実。
だからこそ、砂を求めて-時を経て色褪せた砂に記憶を見せる効果はない-この場所を訪れるものも多い。
そして私は、湧き出る砂を前にして躊躇する。
見たいと望む景色は確かにある。けれど、それを本当に目にしてしまった時果たして旅を続ける事が出来るのかどうか、迷い答えを得られぬままに立ち尽くす。
不意に目に痛みを感じ、閉じる。それが、風に巻き上げられた白砂の所為だと気付いたのは、瞳を開ける直前。
ゆっくりと視界を広げると、砂漠の風景の中にあの丘で微笑む懐かしい姿が重なって見えた。
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