焔樹の華

 砂馬を駆り、まず三日。湧水緑地を経由してさらにもう三日砂漠を渡ると不毛の地独特の植生が姿を現す。

 普段は枯れ枝のように見えながら朧水の時期にのみ漏斗のような葉を茂らせ地下茎に大量の水を貯える袋根木。同じく岩石に似た固い殻で守られた種の姿で砂漠を転がり、水に出会うと僅か二日で花を咲かせまた種をつける石割草。これら以外にも水の少ない苛酷な環境で生き抜く為に普通では考えられないような変化を遂げた植物が砂の大地に根を下ろす。

 そんな独自の法則に従った不可思議な植生の中でも、もっとも異彩を放つのは、熱砂の中堂々と幹を伸ばし、葉を茂らせ、枝を天高く広げる大樹だ。

 赤銅色の枝は太陽を求め目一杯に腕を広げ、光沢のある葉が照り付ける熱射を受け止める。枝と同じ色の幹の内では集められた光が炎となって循環する。この樹は水ではなく光を、熱を糧とする為に、その身を鋼と変えた。

 故に酷く無骨な印象を与える姿だけれど、それはこの樹の一面でしかない。


 日が沈み夜気が砂漠を覆い始める頃、枝のそこかしこに耀くのは炎の華だ。

 赤黄橙と陽光そのものと言ってもいい色彩を花弁に乗せ眩しいほどに燃やす。集めた光をこの時とばかりに解き放つ。

 光に誘われ地中に隠れていた小さなもの達が目を醒まし、それを捕らえるもの達も何処からか訪れる。この光の中でだけ咲く夜光来の花が純白の花弁を広げ甘い匂いを漂わせ、惹かれるように夜来蝶が辺りを舞い始めた。

 華が咲いているのは僅か一刻あまりの事ではあるけれど、不毛の大地はこの瞬間文字通り命の輝きに包まれる。

 俄かに騒がしくなった夜の片隅で、私は逃げ出してしまいそうな胸の中の感情を押さえつけながら、大きく歓声を上げた。

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