青の聖域

 幾つもの光石に照らされた長い通路を抜けると、そこには青が広がっている。

 深く濃い青の光を投げかける空は、しかしよく見れば雲一つ無くしかも奇妙に揺らめいている。むしろ水中から見上げる水面の輝きに似ているだろう。

 事実ここは薄い膜によって水と隔たれた海底に存在する広大な空間なのだから。


 淡い青に染められた砂地は見渡す限り何処までも続き、時折思い出したように形を保った珊瑚樹が標の様に横たわっている。その光景は、どこか荒廃した庭園を思わせ、しかし同時に人の手が入る事を拒む荘厳さも感じさせる。

 かつて巡礼者達が辿った道を辿ろうと一歩踏み出せば、砕けた珊瑚樹からなる砂利に足を取られ、仰向けに倒れこんでしまった。

 ゆらゆらと揺れる水面が目に入り身を起こす事も忘れ暫しその光景に心奪われる。降りしきるのは青い光。空気も青く、息をする度に水を吸っているそんな錯覚に陥る。

 暫くこうしているのも悪くない、そう思い体の力を抜き、目を閉じた。


 そんな気分を打ち消したのは、顔に当たった水滴と視界に飛び込んで来た青い光を遮るほどに長く巨大な影。それが身をくねらせ水滴を滴らせながら中空を泳いでいく。

 それが滄竜だと思い当たり唖然と私はその姿を見送った。ただ不思議と中空を泳いでいる事は疑問には思わなかった。気がつけばいつのまにか私の周りで様々な魚達が泳ぎ始めていたから。

 私は無言のまま立ち上がり、もと来た通路へと踵を返す。最後に一度だけ水の天蓋を見上げた。容易く汚れてしまいそうだと不安になるほどに綺麗な青さを保っていた。

 漠然と思う。ここはもう人が立ち入って良い場所ではないのだな、と。

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