旧き力

 旧い言い伝えがある。

 異界からの『力』を行使する魔術でもなく、今では失われた『源語』を用いての言霊でもない、もっと根底にある未分化で荒々しくそれ故に強い、力のあり方を示す旧い言い伝えがある。

 それは世界が本来もっている力だと言う。世界が人に貸し与えた力だと言う。そして、言葉と魔術が生まれた時に人が忘れてしまった力だとも……。


 だからこそ、再び世界から借り受ける為には儀式が必要だ。

 それ自体は、単純な事だ。ただ一つの動作を強く信じ繰り返せばいい。

 問題は必要とされる一千万回という回数。それを一日も欠かす事なく行い積み重ねていかなくてはならない。それがどれだけの時間を必要とするのか、また諦める事無く続ける事が出来るかどうかは、分からない。

 しかし、各地に伝わる伝説の英雄達は皆、この『旧き力』を得ていたと言う。ある者は風よりも早く駆け、ある者は岩を打ち抜き、ある者は遥か先の標的を射抜いた。

 彼らが手にしたのは愚かなまでに純粋で一途な想いと、長い時間とそれに耐える忍耐と積み重ねられた動作の上に築かれる根元の力。


 それは、今はもう失われ、痕跡さえ残っていない言い伝えの中にのみある『力』。

 しかし、信じる者がいる。

 だから、動作は繰り返される。

 やり遂げる事が出来ないかもしれないと忍び寄り囁く不安と、無為とも思える繰り返しに耐え、積み重ねた痕跡を証に、流した汗と強く信じる心を道連れにして。全ては繰り返された行為に宿る。

 どうしても叶えたいと願う譲る事の出来ない想いを実現する為にただひたすらに……。

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