交鎖の都

 北に険しい山脈を戴き、西に一面の砂の海を、南には広大な平野が広がり、東は新大陸との交易、その玄関口となる港町が存在する。このような地理的条件からこの街は大陸を旅する者たちにとっての重要な中継点であり、また様々なありとあらゆるものが集う場所でもある。


 新大陸よりは来たる珍しい食材や書物、北の永久凍土でのみ精製される氷晶石の結晶、砂漠にだけ生える植物から作られる器や薬、西の果てにある皇国独自の技術で加工された貴金属-首飾りや装飾の為された芸術品としての刀剣-、南からは家畜や、穀物、絹糸、硝子などが届けられる。

 当然、それを求めて人が集り、市が立ち、また人が集る。当たり前の事として、様々な事柄が生じる。


 活気と熱気の中、顔見知り同士は挨拶を交わし合い、店主と客は商品を巡って掛け合いをし、血の気の多い者達が騒動を起こす。旅人は一時の休息を求め、商人は世にも珍しい商品を手にしようと躍起になり、傭兵は今日もまた生き延びた事を喜び酒場へと繰り出す。風乗りや早駆けは留所で依頼を待つ傍ら仲間達と酒を酌み交わし、昼間から賑わう酒場では吟遊詩人が古い詩を爪弾き、裏通りの隅では情報屋が薄笑いを浮かべる。

 人と人とが関わり合い、清濁全てをひっくるめ日常として受け止められる。


 その日常の中で、一獲千金を夢見ながらその日の飯の種を求める者がいて、反対にひょんな事から思いもよらぬ冒険に巻き込まれる者もいる。導きとなるのは、新大陸からもたらされた地図であったり、古から伝わる品物であったり、助けを求める少女であったりだ。

 そして、選ぶも拒むもすべては自由。

 なぜならこの街は、道と人と物と運命が間違いなく出会う場所なのだから。

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