書の邸
大陸を横断する山脈の麓、険しい山林を抜けた先にその邸はある。外見からは、背後にそびえる山脈の固い岩盤を刳り貫きつつ未だ拡張工事を続ける世界最大の図書邸である事など想像もつかない。しかし、一度重い扉をくぐれば眼前に広がるのは無限無数の書物達だ。
そこが土の中であるとは微塵も感じさせない邸内は光が色彩を落とすほどに静謐にして荘厳、故に訪れる事を許されるのは書を愛し書に愛される者だけ。一歩足を踏み入れれば聳え立つような書架の間を忙しく行き来する書使達が動きを止め迎えてくれる。彼らの役目は主として邸の管理だけれど、時として書物を文字を知識を、そして想いを求めて大陸中に散らばり、物語は勿論の事、日記、恋文、密書、果ては壁の落書きや酒場で歌われた即興詩までをも収拾し邸に集わせる。かくして書物達は次々に書架へと収められ、次の読み手が現れるのを待ち続ける、秘めた想いを邸の中に漂わせながら。
日々無秩序に増え続ける書物の全てを把握しているのは帳場に腰掛ける一人の書使。緩やかに流れる時間に身を任せて彼女を見ていれば訪れる者が求める書物を淀みなく勧め導き与えていくのが良く分かる。
この図書邸は世界中の書物を読み漁る事に取り憑かれた男が作り上げた邸ではあるけれど、『分類するよりも内容と何処にあるかを憶えてしまった方が簡単ですから』と分厚い本を手に微笑む彼女こそが邸の主に相応しいと言えるのかもしれない。
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