水晶街
一歩足を踏み入れた瞬間、何もかもが白い輝きに染まった。白く澄んだ石畳を歩く度に響く足音が波紋となって軌跡を残しながら広がっていく。軽い驚きと共に溜め息ともつかない声を洩らすと、それさえ輝きを帯びていた。
水晶を透かした光を浴びると何もかもが同じ輝きを宿すのだろうか……。
すれ違う人々の輝きを目にしながらそんな事を思う。
いつ誰がどのようにして純水晶の大鉱脈の中に街を作り上げたのかは伝えられていない。けれど、街の中をゆっくりと歩いていると、そんな事はこの街に住む者にも、訪れた者にも何の関係もない事のような気がした。
傍らの光は柔らかく、瞳に映る景色は不思議なくらいに優しい。すれ違う人が皆微笑みを浮かべている。
かけられた声は酷く穏やかで暖かかった。
きっと全てが光に包まれているからだ。
色々なものが淡く輝くこの街を訪れそのまま留まる者は多いと言う。光に惹かれるのか、人と共にある事の温かさを思い出すからなのか。尋ねたとしても、誰も答えを教えてはくれないだろう。それは、人から聞くものではなく、自分が己の内から見つけるものなのだから。さすがにこの街でもそんなお節介焼きは少ない。
ふと見れば、私の手も仄かに光を放ち始めていた。漂っている輝きに似た白い光だ。
同時に似た微笑みを浮かべている自分がいる。鼓動が少し早くなった。足が止まった。波紋が遠く流れていく。心配そうな顔がいくつか目の前を横切り、私は大丈夫とその度に短く答えた。
そう大丈夫だ。半ば自分に言い聞かせる。
旅はまだ終っていない。立ち止まる時ではないと分かっている。
確かにいずれ、何処かに留まる時が来るかもしれない。けれど、それは今ではなくずっと先のいつか、と。
だから私は輝きと共に再び歩き出す。
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