異邦の食卓
住まう場所が異なるならば、気候風土が当然異なり、生活の基盤となる動植物も異ってくる。必然的に食生活もそれに合わせて変化を遂げる事になる。
例えば、草魚の肉を凍らせ生のまま食べる地域があり、白幹木の樹皮を泥に付け込み保存食とする地方もある。そして、時として信じられないものを信じられない方法で食材とする場合もあるのだ。特に辺境とされる場所においては……。
今私の目の前にある『それ』も食材そのものの素性と、調理方法から酷く有名なものの一つに数えられる。
白磁の皿に乗せられた赤黒いその茸は、本来熱を加えようと水に晒そうと決して消える事のない猛毒を持っていた。
この地方でしか生えない黒色桂華の花弁に、柑橘草、水糖花、塩芽葉などの香草類を加えた飼料のみで飼育した家畜の血を撒いた土壌に生える場合にのみ、この茸の持つ猛毒が跡形もなく消え去るというのは驚愕の一言に尽きる。
尽きるのだが……。
一欠片で十人からの人間を死に至らしめる事が出来るそれを口に入れるのは毒が消えていると分かっていても少し躊躇われる。かつ時折毒が抜けきっていない茸に当たり死者が出るとなればなお更の事だ。しかし鼻孔をくすぐるのは実に食欲をそそる香りであり、目の前の茸から発せられているのも確かな事実。
そもそも解毒の方法は、間違ってこの茸を口にしながら悪運強く生き残った男が、茸の味を忘れられず残りの一生を懸けてを見つけ出したものだ。それほどまでに追い求めたものなのだから、味は疑うべくもない。ならば後は男の情熱を信じるだけだろう。
かくして、意を決し私は茸を口へと運ぶのだ。
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