4話

三川は神妙な顔をして話はじめた。

「あなたは現世で亡くなり、こっちの世界へ来ました。こっちの世界と言っても、普通なら臨界へ来ることはありません。そのまま次の人生へ向かうために三途の川を渡ります。しかし、ごくたまに三途の川を渡りきらず、生きても死んでもいない状態でこの臨界へ落ちてきてしまうんです。そのような人のことを我々は、川落ち、そう呼んでいます。しかし川落ちの人が来るのは、本当にごくたまにです。私の仕事は川落ちしてしまった方たちをしっかりと来世へと運ぶのが仕事です。しかし…」

三川は俯いて声をくもらせた。

「どうかしましたか?」

私が問いかけると、はっとした顔をして私を見た。

「ごめんなさい、急に黙り込んでしまって。実はあなたのようなケースは初めてなんです。記憶がないというのは…。」

「記憶がないとなにかダメなんですか?次の人生では前世の記憶なんていらないじゃないですか。」

「いえ、そこじゃないんです。実は…臨界から抜け出すためには記憶が必要なんです。」

「臨界を抜け出す…ため?」

三川は大きく頷いた。そして改めて神妙な顔をした。

「はい…。ここに来る理由のほとんどは、前世でなにかやり残したことがあり、それが本人にとってとても大きく、それが後悔の重りとなり川から落ちてしまうんです。そして臨界を抜け出すためには、その前世でやりきれなかったことをやりきる、もしくは諦めをつかせなければいけないんです。しかしあなたのように記憶がないとなると、前世でやりきれなかったことすら分からないので、どうしようもないんです。」

私の頭の中では理解した自分と理解しきれない自分が格闘していた。

「つまり…私はここから抜け出すことは出来ないと。」

黙って頷いく三川を見て私はひとつの提案をした。

「じゃあ、ずっとここにいるのはダメなんですか?もちろんただとは言いません。何でもやります。」

私は空回りな笑顔をしながら言った。しかし三川はゆっくりと首を振った。

「無理です。転生者がここにいることが出来る時間はせいぜい5日ほどです。話を聞く限り、あなたがここに入れる時間は残り3日ほどだと思います。」

「では…もし3日のうちに転生出来なければ、私はどうなってしまうんですか…?」

三川は黙り込んで俯いた。そしてしばらくして、口を開いたかと思うと、か細い声で言った。

「…完全消滅……。あの世にもこの世にも魂がない状態になってしまいます。つまり、二度と転生できなくなってしまうんです…。」

私には意味が分からなかった。しかし、三川の表情がことの重大さを物語っていた。


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