3話

私は光の中にいた。そしてその奥に人影が見える。その影は私よりずっと奥にいて、ゆっくりと進んでいるようだった。

「待って…、置いていかないで…」

……………………………………………………

………………………も……し…もし…………

「もしもし、ちょっと、こんなとこで寝てたら風邪引きますよ。」

私は勢いよく飛び起きた。そして当たりを見渡した。景色は何も変わっていない。しかし目の前には背の高い、警官の格好をした男性が立っていた。

「ちょっと、こんなとこで何してるんですか?」

男は眉をひそめながら私の顔を覗いた。私はあまりに混乱しすぎて声が出なかった。

「もしもし、大丈夫?ちょっと署まで来てもらっていい?」

男に手を引かれ、言われるがままてちてちと歩き始めた。

男は小川の上流に向かって歩いていった。歩いているあいだ、色々聞かれたが何も答えることが出来なかった。

しばらく歩くと小さな交番が見えてきた。男は私を椅子に座らせると、暖かいお茶を出した。

「これでも飲んでちょっと落ち着きなさい。」

私は湯のみに口をつけた。熱い感覚が喉を通ると同時に、緊張や混乱も流れていった。

「大丈夫?」

「はい…。」

小さな声でいった。すると男は小さく口角をあげた。

「なら良かった。ところで君はどこから来たんだい?」

「…分かりません。」

「そうか、じゃあ君はあそこで何をしていたんだい?」

「歩き疲れて寝てしまいました。あの…すいません。ひとつお聞きしてもよろしいでしょうか?」

「なんでしょう?」

「ここはどこなんですか?目覚めたらここにいて、しかもなんの記憶もなくて…。」

「記憶がない…。もしかして川落ちか?」

男はぶつくさ独り言のようになにか言いはじめた。

「あの…、すいません」

険しい表情をする男に、私は恐る恐る声をかけた。

「あぁ、すいません。質問に答えていませんでしたね。ここは生と死の狭間。私たちはこの場所を、臨界、とよんでいます。そしてここはそんな臨界を整備する臨界交番です。私は臨界交番長の三川(みつがわ)と申します。どうぞ、よろしく。」

私の頭は様々な情報を理解出来ずにいた。

「臨界…交番……生死の狭間……。生死の狭間!?」

私は驚きのあまり、勢いよく立ち上がった。

「生死の狭間って、私死んだんですか!?」

三川は私の肩を軽く叩いた。

「落ち着いてください。しっかりと説明します。」

私は椅子に腰を下ろした。

「すいません…。大声を出してしまって。」

「いえいえ、大丈夫ですよ。そうですよね、驚かれるのも無理はありません。いきなりあなたは死んでいますなんて告げられたら、誰だって驚くでしょう。今からあなたが置かれている状況を説明します。少々お待ちください。」

そういうと、棚から1枚の白紙とペンを取り出し話し始めた。私は平然を装ったが、心臓の鼓動は外へ漏れてしまいそうだった。



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