第2章 9月6日

見覚えのある、知らない人

「転校生が来ました。拍手で出迎えましょう。」


おずおずと入ってきた男子に既視感を覚えた。


「自己紹介をお願いします。」

「僕の名前は川原諒介です。九州から来ました。宜しくお願いします。」


でも、知らない名前だった。


「今日からこのクラスの仲間になります。皆さん仲良くしましょうね。川原君はあそこの空いている席に座って下さい。」


班長会議で転校生の隣にされた。人見知りしないし、しっかりしてるし、班長だし、頭良いから隣でいいでしょ、とある女子に言われた。男子も賛同し、他の女子も賛同し、気づいたら隣になっていた。

嘘です。本当は反論しまくりました。


「これで朝の会を終わります。気を付け、礼。」

「ありがとうございました。」


川原君が何か話したそうにしている。


「どうしたの?」

「時間割持っていなくて、次の時間何の教科か分からなくてさ。教えてもらえると嬉しいな。」

「次は社会だよ。」

「ありがとう。あの、君の名前は?」

「井野奈美。この班の班長だよ。何か分からないことあったら聞いてね。よろしくね。」

「うん。」



「ごちそうさまでした。」


川原君に聞きたいことがあったが、ずっと話せないでいた。今がチャンスだと思い、話しかけようとしたら、急に話しかけられた。その方が好都合だが。


「井野さんは九州に行ったことあるの?」

「あるよ。実は一時期住んでいたよ。小学3年生から5年生くらいの時。」

「何県に住んでいたの?」

「福岡県。川原君は?」

「僕も福岡県。」


会話してみて分かったが、何故か標準語だった。イントネーションも私より正確だ。私が福岡県にいた時はほとんどの人が標準語では無かったのに。何故だろう。

あと、声も聞いたことが無かった。


「伯母が福岡県に住んでいるの。」


瀬野咲乃のことは大嫌いすぎて、親戚だという事実がとても悲しい。


「いとこもいるの?」

「いるよ。同い年の従姉が。しばらく会ってないけど。」


瀬野とは私がこちらに引っ越してからは会っていない。


「そうなんだ。僕の従妹はこの辺に住んでいるんだけど、記憶に無いくらい昔に会ったことがあるらしいんだよね。だけど向こうも年下だから覚えていなくて。先週久々に会ったよ。」

「へえ。仲良くなれそうだった?」


私は従姉と良い関係を築けなかった。定期的に会うということは大事だと思う。


「うん。ところでさ、好きな人いる?」

「いないけど、突然どうしたの?」


本当にいてもこんな場所では言わない。もしかして川原君は一目ぼれでもしたのだろうか。


「実は高校を卒業するまでに相手を見つけてくるように、と親に言われて。お勧めの女子はいる?」

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