恒例となった、呼び出し

 表彰が始まった。ただ皆に合わせて拍手をするだけ。と思っていたが、不意に頭の中にある文章がよぎった。


+++


 奈々子は陸上部に入っている。今年も大会で良い成績を収めたらしい。全校生徒の前で、誇らしげに賞状を受け取っていた。


「私、貴方より運動神経良いから。」

「奈々子は凄いね。私では到底及ばないよ。」

「どうせその言葉も本心じゃないでしょ。内心では私の事見下してるくせに、そんな事を軽々しく言わないで!」


 また厄介な事になった。癇癪持ち、と心では罵りながら、口当たりの良い事を言う。


「そんな訳無いじゃない。私の50m走のタイム知ってるでしょう?7秒台なんて夢のまた夢。羨ましいわぁ。」

「そんな事言ったって、内申点は貴方の方が良いじゃない!体育も含めて全部5でしょう?」

「奈々子、陸上大会まだあるでしょ?全国まで行ったら良い高校の推薦貰えるんだろうなぁ。」

「そ、それもそうね、…」

「あ、もうそろそろ時間だ。じゃあね~」


 ふう。機嫌が少し直ってたから、大丈夫だろう。ああ、うんざりする。奈々子の目的は何なのかしら?あの子は利益で人を選ぶらしいのよね。


+++


 表彰はまだ続いている。きっと夏の大会のせいだろう。でも、あの小説の主人公の気持ち、良く分かる。分かってしまう原因は腹立たしいけど。


***


「今日は何曜日か、分かっているわね?」


 声を出さずに頷く事しか出来ない私に満足気な笑みを見せるのは、やっぱり瀬野だった。私の耳元で囁く声が、私の前ではいつも発する作った声で、恐怖を感じざるを得なかった。


「昼休み一緒に遊ぼう。」


 気付いた時にはそう言っていた。今日は地獄だろうと薄々察していた。覚悟がいるだろう、という事だけは分かった。


***


 表彰が終わった。後は学活と掃除だけだ。今日は早く帰れる。掃除場所が憂鬱としか言いようが無い事以外は問題無いだろう、と思っていたら、悪魔のプリントが配られた。


「班長投票です。今回は前の班長から男女1人ずつと、他に2人にしたいと思います。」


 今回は班長はお休みだと思っていたのに。そもそも、何故私が選ばれるのか。それは定期試験というモノの影響だろう。


***


「あのさ、日向君は強くアプローチする人より、素直に喜んだり、反応してくれたり、仕事を手伝ってくれたりする人の方が良い気が…」

「私より頭良いからって説教面してんじゃない!着いて来なさい。」


 女子トイレに連れ込まれた。個室に行く。抵抗なんて出来る訳無かった。何故なら、瀬野は良い所のお嬢様だからだ。


「何でお前はいとも簡単にテストで良い点が取れるんだ!家で真面目にテスト用の勉強でもしているのか?」


 ただ、相手が満足するまで耐える。そうすれば時間になる。

 あと、私はテスト用の勉強は一切していない。小学1年生の頃から全国展開している塾に行っているだけだ。しかも、中学受験の予定は無い。


***


 此方に戻ってきて、暫くは前の塾に行っていたが、中学受験をしない為あの塾をやめ、少し経ってから別の塾に行った。そこに入ったのは小6の冬休みで、春に偏差値が70を超えた。中学校の最初の定期試験からずっと学年1位だ。

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