追い詰めた、校外学習

 朝の会。先生の話を左から右に流していると、大きなニュース、という言葉が耳に入った。これは聞いた方が良さそうだ。


「隣のクラスに新しい生徒が入りました。男の子だそうです。実は、このクラスにも新しい男子生徒が、来週から入ります。」


 道理で隣のクラスが騒がしい訳だ。このクラスには来週から入るのか。カッコいい人だと目の保養になるな、と期待してしまう。私にとってのカッコいい人は、あの時から変わらない。


 始業式はリモートだ。機械の接続が上手くいかず、予定時刻は過ぎている。でも、始業式なんか聞く気は無く、朝の会の先生の言葉が、頭の中で反復されていた。


***


「日向君はどんな食べ物が好きなの?」


 校外学習の日、班で昼食を食べろと言われ、瀬野以外の班員の気分はおそらく最悪だった。仕方ないから、日向君以外の男子と話していた。しかし、共通の話題が瀬野の愚痴しか無く、当たり障りのない事しか話せなかった。だから、日向君と瀬野の会話を聞いていた。


「焼き魚かな。特にブリの照り焼き。」

「へえ、私は……肉の方が好きだよ。」


 因みに瀬野は魚が嫌いだ。それを分かっていて日向君は言っているのだと知っているので、どうしても笑ってしまう。


「瀬野の弱点って知ってる?」


 校外学習の為に、瀬野が大嫌いな日向君の為に訊きに来たんだ、と藤井君が言ってきた。

 必死に考えた。勉強も運動も上の下位くらいだし、絵心はあるし、音痴じゃない。家事は出来ないが、それは私が言える事では無いし、日向君も苦手だったはずだ。じゃあ性格で、と思った時に思いついた。


「自分の嫌いなものを好きだと言われると、その後の会話に隙が生まれる。そこをつければ会話の主導権が握れて、色んな情報が聞き出せるよ。」


 いつか日向君情報を瀬野に話した時、日向君と好みが合わないものがあって、あからさまに狼狽えていたんだよね、という経験も付け足して言ってみた。

 その事を思い出して、藤井君も思わず笑ってしまったようだ。もう1人の男子も笑っている。愚痴仲間だから知っていたのだろう。日向君はこの後どうするんだろうかと思い、3人でちらちら横を見ている。


「瀬野さんは、魚の中では何が好きなの?教えて欲しいな。」

「え、えーと…サーモンかな。」

「魚は家では何がよく出るの?」

「うーん……覚えてないなぁ……」

「そういえば、瀬野さんの好きな食べ物は何?」

「私?トウモロコシとか人参とか、南瓜とかの野菜が好きだよ。」

「そうなんだ。僕はあまり野菜は好きじゃないなあ。」


 日向君は瀬野の心の余裕を無くしていく作戦だろう。瀬野の作り笑いが崩れていく。


***


 いつの間にか始業式が始まっていた。顔がうまく映らない為、校長先生の話、生徒代表の話、表彰の順になるらしい。表彰の頃にはリモートが上手くいくことを願っている状況だろう。

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