打ち明けられた、時
チャイムの音が鳴り響いた。挨拶、ではなく朝読書の時間だ。本に視線を落とし、静かに読み始める。
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急に人気のない場所に来てしまった。奈々子に引っ張られるようにして連れてこられたそこは、理科室の前だった。
「私、好きな人がいるの。」
だから何。早く教室に戻りたいよ。そう言いたいけれど、許されないって分かってた。この子を怒らせると面倒くさいことになる。
「恋愛相談ってこと?」
「出来れば協力して欲しいの。」
「誰か分からないと何も出来ないけど。」
「私が好きなのはね、田島君なの。」
ああ、と悟った。強引に連れて来られた理由を。同じ塾に行っているこの学校の同じ学年の女子が私しかいないからだ。
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封印しようとしていた記憶が、勝手に脳の中で再生される。思い出したくない、と心で叫んでも止まらなかった。
***
「私、日向君が好きなの。」
校庭のざわめきの中、級友に告げられた言葉。それは、私の学校生活を狂わせるのには十分だった。
小学4年の秋、校外学習で博物館に行った。4,5人の班で行動することになり、私は班長になった。特に大きなトラブルもなかった。他者から見れば。瀬野と日向君と他の2人の男子と私の班は、完全に2つのグループに分かれていた。私と日向君が話していると会話に入ってくる瀬野。実は日向君に半年前位から熱心にアプローチしている。そのせいでクラスのほぼ全員の男子から距離を置かれていた。それはこの班の男子も同様だった。その為、他の2人は少し私たちから距離を取っていた。
後から聞いた話だが、2人の男子は日向君と仲が良いらしく、瀬野の愚痴仲間でもあるらしい。瀬野が休んでいる日は私ともよく話してくれた。
「本当は君と仲良くしたいんだよね。あの2人も。君も瀬野に言われて協力しているだけでしょ?」
と日向君に言われた時は返事に困った。校外学習の丁度1週間後の出来事だった。
「表面上は事を荒立てたくない気持ち、分かるよ。僕も嫌だけど瀬野と話しているもの。たまに理科室の近くに呼び出されているのも知ってる。瀬野が僕の事を恋愛の意味で好いているのも知ってるし、好かれたいから僕に話しかけているのも知ってる。クラスの大半の人が瀬野を嫌ってるのも知ってるし、それを瀬野に伝えた君が奈々子に激怒されて諦めてるのも知ってる。」
でも、私には何も出来ない。瀬野は力が強いから、暴力を振るわれると私が傷つくだけ。
「今度理科室の近くに行くのはいつなの。」
信用しても良いのだろうか。でも、多分確認だろう。絶対分かっていて訊いてきている。日向君の狙いが分からないが、瀬野にうんざりしているのは彼も同じだ。
「毎週木曜日。」
+++
キーンコーンカーンコーン、キーンコーンカーンコーン。
いつの間にかチャイムが鳴っていた。
「起立、気をつけ、礼。」
「おはようございます。」
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