22年間分の、ありがとう。〜ぬいぐるみの神様へ。今日だけルール、破ります〜

うさみち

22年間分の、ありがとう。〜ぬいぐるみの神様へ。今日だけルール、破ります〜


 私の名前はうさこ。

 今日でもう、22歳になるわ。


 私の持ち主は由美。

 私の大事な親友よ。


 私はね、由美が4歳の時に、由美の両親がプレゼントしてくれたの。以来、ずっと一緒だわ。


 それからずーっと、いつも一緒。

 限られたぬいぐるみだけが、由美と一緒のベッドで寝られるんだけど、由美の隣は誰にも譲ったことはないわ。


 だけどね、それを鼻にかけたりはしないのよ。

 だって私たち、みんな由美が大好きだから。


 由美が笑うと、嬉しいの。

 由美が泣くと、悲しいの。


 唯一嫉妬した時はね、由美に彼氏ができた時。

 あれは、高校2年生の時だったわ。


 由美が嬉しいと私も嬉しいから、喜ばしくはあったんだけど……ちょっとだけね。

 嫉妬もして、さみしかったわ。


 だって由美ったら。

 毎日彼と電話をするし、暇さえあれば、彼を想うの。

 

 でも不思議よね。

 次第にね、私の嫉妬心は和らいでいったわ。


 なぜならね。

 電話をする時は必ず私を抱っこしてくれたし、ぎゅうって大事に、抱きしめてくれたから。


 幸せを一緒に、分かち合えたの。


 由美と出会って、22年。

 私の手の毛は、抜けるほど擦り切れて、私の体の綿も、へたるほどなくなって。ちょっとスリムになっちゃったけど。

 それでも大事にしてくれる由美が、大好きよ。


 ……だからね。

 今日くらい、ぬいぐるみのルールを破ってもいいかしら。


 ぬいぐるみのルール。

 それは、人間がいる間は、絶対に動かないこと。


 今までずっと守ってきたわ。

 由美が泣いている時、抱きしめてあげたかった。

 由美が嬉しい時も、抱きしめて分かち合いたかった。


 それでもずっと、ルールは守ってきたわ。


 ……けれど、今日だけは……

 ぬいぐるみの世界の神様。

 ルールを破ってしまってごめんなさい。


 明日由美は、結婚するの。

 私も連れて行ってもらえるけれど、22年間一緒に過ごしたこの部屋とは、お別れするから。


 22年間分の、『ありがとう』を込めて。

 

 愛してるわ、由美。


 私はぬいぐるみのルールを破って、寝ている由美のおでこをそうっと撫でて――。優しいキスを落として添い寝する。



 明日からの由美の新生活が、輝かしい日々でありますように……。


 うさこより、愛を込めて――――。

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