七 恐怖の鬼たち

 翌日、小白丸と五色彦は部屋に残り、モモと赤兵衛は二人で町を回りました。赤鬼のサエギリとフサギについて、何か情報はないかと探ってみたのです。

 痛ましいことに、鬼に出くわした者はその大半が殺されているため、多くは分かりませんでした。けれども、鬼が街道を行く人をおそう時、必ず最初に道の近くのしげみや岩かげから、矢を射かけてくることが分かりました。そうして何人か殺して戦意をくじいたところで、武器を持って直接おそいかかってくると言います。その武器が何かということは、あまりはっきりしませんでした。

 昼ごろ、赤兵衛はモモとともに宿屋にもどると、小白丸と五色彦に言いました。

「おぬしら、ちょっと鬼の住む森まで行ってくるがよい」

 彼らの表情は固まりました。しかし間もなく、五色彦は声をふるわせ気味にして言いました。

「それって、ひょっとして……、偵察ってやつか? 鬼が実際に森のどこに住んでるか、調べてこいって……? へっ……。上等だぜ……!」

 しかし赤兵衛はこう言いました。

「ヒッヒ……! いいや、そこまでせずともよい。街道ぞいを行って、森が近くなっている辺りまで見てくるだけでかまわぬ。五色彦は歩いて、小白丸は上空高く浮かんで、後で地図が描けるくらいに、地形や位置関係をよく見てきてほしいのじゃ」

 五色彦とモモは首をかしげましたが、小白丸はこんな風に言いました。

「……なるほど。なんとなく分かってきたぞ……。赤兵衛、きみは待ちぶせをする鬼を、さらに待ちぶせする気だな?」

「ヒッヒッヒッ! さあて、それは後のお楽しみじゃ! さ、みなの衆。やらねばならぬことがまだ山ほどあるぞ!」


 その日の夜でした。真夜中をすぎ、空が白み始めるよりもいくらか前の時刻です。月はすでに沈んでいましたし、星明かりもほとんど見えませんでした。町にはわずかに明かりが灯っている場所もありましたが、町を出れば辺り一面の暗闇が広がっています。どこかで狼が、大きな遠ぼえの声を上げました。

 暗い野の道に、ちょうちんの明かりが、さびしく一つだけ光ってゆれています。そのたよりない明かりの中に見えるのは、小さな荷車と、蓑を着こんだ、父と娘と思われる親子二人です。彼らはソネの町に向かう街道の途中で、どうやら立ち往生してしまっているようでした。

「お父さん……! どうするの……? こんな所で……!」

「車軸が傷んでいたんだ……! ここでは直せない。だが心配するな。じきに夜が明けるし、おそらくもう、町は目と鼻の先だ」

「でも、せっかくここまで、鬼にも妖怪にも見つからずに来られたのに……! こんな所で止まってたら……、えっと、わたしたちも、この積み荷も……!」

「いざとなったら、これは手で運ぶ。この品はだれにも、わたすわけにはいかな……」

 ヒュンッ!

 何かが親子のちょうちんをかすめました。矢です。道の外の方から、親子をねらって飛んできたのです。

「モモっ、逃げるぞっ! 反対側を持てっ!」

 父親がさけびました。彼は変装した赤兵衛です。その彼が呼んだ通り、娘の方はモモでした。二人は荷台から細長い箱を出して、矢が飛んできたのとは反対方向にかけだしました。

 矢は続けて何本も飛んできます。暗くてほとんど分かりませんが、街道のそばまでせまっている、森の入り口から撃ってくるのです。赤鬼たちの矢にちがいありません。

 けれどもその矢は、今にもモモたちに当たりそうでいながら、ただの一本も当たりませんでした。赤兵衛が先ほどから二人の周りに風を起こして、矢をそらしているのです。

「グウォオオオーーッ!」

 鬼たちが恐ろしいおたけびを上げ、猛然としげみをかき分ける音がした、その瞬間でした。

「今だっ!」

 ガササッ!

 小白丸の声がするや否や、何か植物が動く音がしました。その直後。

「ギャアアアッ!」

 鬼たちが大きな悲鳴を上げました。ちょうどその時、雲の切れ目から星明かりがのぞいて、毛皮の服をまとった、赤黒く大きな体の鬼二匹と、小白丸、そして五色彦の姿が見えました。

「やったぜ! 引っかかったっ!」

 五色彦がさけびました。森から出てモモたちを追いかけようとした二匹の鬼の体に、植物のつるが、文字通り引っかかって押しとどめているのです。

 それはするどいとげのある、野いばらでした。いばらは毛皮から出た鬼たちの腹に、とげを突き刺して横断しています。つるの両端の方だけはとげがなくなっており、そこをそれぞれ小白丸と五色彦がくわえて持ち上げているのです。

 前の日の日没後、モモたちは川原に生えていた野いばらのつるを刈り取り、深夜にこの森の入り口まで来て、しげみの中にかくしておいたのです。そこは森と街道などの位置関係から、もっとも鬼たちを罠にかけやすいと赤兵衛が考えた場所で、いばらをかくした後、小白丸たちには今までかくれてもらっていたのでした。先ほど聞こえていた狼の遠ぼえは、眠っているであろう鬼たちを起こすために、小白丸がほえていたのです。

「グオオ……! きさまら……!」

 鬼が低い声でうめきました。

「きさまらっ……! ゆるさぬ! ゆるさぬぅっ!」

 鬼たちはいばらをはがそうとして暴れましたが、すでに小白丸がつるをくわえたまま鬼の周りを飛んで、いばらを彼らに巻きつけつつあります。一方、五色彦の持ち上げた方の端はあらかじめ太い木に結ばれていたため、彼はそれをはなして、するどいくちばしで鬼たちの手足を突きまくっていました。そうして間もなく、五色彦は街道の方に向かってさけびました。

「モモっ! いいぜっ、やれるぞっ!」

 今や鬼の体をいばらが一周して、小白丸がものすごい力で引っ張ってしめつけています。その時すでに、モモと赤兵衛は引き返し始めていました。細長い箱に入っていたのはモモの弓矢で、矢には町で手に入れた鉄の矢尻が付いています。彼女はそれを出して弓につがえながら、荷車のそばまでもどりました。ちょうど夜の空も白み始めてきました。その時。

「オオオ……! キラニクルウォめっ……! ゆるさぬ! ゆるさぬ! ゆるさぬぅっ!」

 鬼の片方がうなりました。見れば彼の右腕には、いばらが食いこんでいません。鬼はしげみに引っかかって立ったままになっていた、弓矢とは別の長い武器に手を伸ばしました。

槍です。小白丸たちがあっと思ったのも束の間、鬼はそれを構えて、モモたちに向かって投げつけたのです。

 ズガシャッ!

(ウッ! しまったっ……!)

 鬼の槍は荷車に命中して、それを木っ端微塵に吹っ飛ばしました。木の破片はモモと赤兵衛にしたたかに当たり、モモの持っていた矢は矢筒ごと弾かれて、すべてが野の枯草の中に消えてしまいました。モモはあせりました。

(矢はっ……、矢はどこっ?)

 あせったのは小白丸たちも同じで、その隙に鬼たちは腰にさげていた鉈を取り出すと、からみつくいばらを断ち切ってしまいました。小白丸と五色彦はすぐに鬼たちに飛びかかりましたが、自由になった赤鬼と二対二の勝負では分が悪く、間もなく彼らは地にたおれました。

「小白丸っ! 五色彦っ!」

 二人がやられたのに気づいて、モモはさけびました。矢は見つかっていません。鬼は地面に転がったまま動かない小白丸たちには目もくれず、二匹ともモモたちの方に歩いてきました。赤兵衛が言います。

「モモっ! 小白丸らはまだ生きとるっ! おぬしは矢を探せ! わしが時間をかせぐっ……!」

 彼は鬼が投げた槍を地面から引き抜くと、せまりくる鬼に向かって、それを投げる構えを取りました。続いて口元のおおいを引きはがして、大声でさけびます。

「来るなら来るがよいっ! どちらか一人は、確実にあの世に送ってやろうぞ!」

 しかし、鬼たちは大声で笑いました。

「グワッハッハッハッ! 強がってもむだだ! 恐れを感じるぞ、猿め! 恐れている! 恐れている恐れている恐れている!」

「グワッハッハ! 猿よ! なぜ森を捨て、キラニクルウォを助ける? 苦しむことになるぞ! 必ず……! 苦しむ苦しむ! 苦しむ苦しむ苦しむ苦しむ! グワッハッハッハッ!」

 赤兵衛は小さくつぶやきました。

「ヒッヒ……! 敵もさるもの。はったりなのが、ばればれのようじゃ。どうしたものかのう……!」

 鬼たちは鉈を構えて、ゆっくりとモモたちに近づいてきます。その時。

「やいてめえらっ……! おいらはまだ、くたばっちゃいねえぞっ……!」

 鬼たちの背後で、五色彦がどなったのです。けれども彼はいまだ地面にたおれたままで、鬼たちもそれが分かるのか、モモたちに向かったまま、笑って彼を無視しました。

「てめえらっ……! なめやがって……! 分かってねえな……! おいらがてめえらのどてっ腹に、後ろから風穴開けてやるぜっ……!」

 五色彦は顔だけを上げてさらに言いましたが、鬼はふり向きもせず、赤兵衛とモモにせまります。モモはまだ矢を探しています。赤兵衛も、起き上がれずにいる小白丸も、歯を食いしばりました。五色彦はさけびます。

「ちくしょうっ! 止まれっ、てめえらっ! 止まれっ! ちくしょうっ……! こっちをっ……、こっちを向きやがれっ! グ……、ウグ……」

 と、その時でした。

 ゴォッ!

 突然、五色彦の方から鬼の一匹に向かって、まばゆい火の玉が飛んでいったのです。それはふり向きかけた鬼の背に当たりました。鬼のまとった毛皮がまたたく間に燃え上がり、鬼たちは二匹ともあわてふためいて大声でわめきました。モモにも赤兵衛にも、何が起こったのか分かりません。

「こいつぁ……、まさか……!」

 五色彦が、目を丸くしてつぶやきました。そばでたおれている小白丸は、ぎょうてんして彼を見つめています。五色彦はここで鬼たちをするどくにらむと、大声で言いました。

「食らえっ! 鬼どもっ!」

 勢いよく開いた彼のくちばしから、先ほどと同じ、まばゆい火の玉が飛び出しました。それはもう片方の鬼に命中し、彼の毛皮にも火がつきました。そして、ちょうどその時。

(あったっ……! 一本だけっ……!)

 とうとうモモが、なくした矢を見つけたのです。彼女はすぐに弓を構え、矢をつがえました。鬼たちは火のついた毛皮をふりはらいながら、それぞれモモと赤兵衛一人ずつを目がけて突進してきています。矢は一本。モモに迷いは、ありませんでした。彼女は赤兵衛にせまる鬼の方にねらいを定め、ただちに矢を放ちました。

 ヒュバッ! ドッ!

「ガハッ……!」

 鉄の矢尻が鬼の頭を射抜きました。しかしもう片方の鬼はモモの目の前までせまっています。

(うっ……! お願いっ、効いて……!)

 モモはすばやく自分の帯に右手を入れ、あの桃の種を出しました。彼女はそれを弓のつるに押し当てて引っ張り、弓をひねって射放しました。

 ビュガッ!

「グアアアアーーーッ!」

 桃の種は鬼の胸に突き刺さりました。鬼はその巨体をのけぞらせ、すさまじいほどの悲鳴を上げました。

そして、次の瞬間。赤鬼の体は、まるでたきぎの燃え残りのように、ぼろぼろになって地面にくずれ落ちたのです。

「ハァッ……! ハァッ……! やっ、た……」

 モモが息を切らしながらつぶやきました。二匹の鬼の体は共に白い灰へと変わり、風に吹かれて消えつつあります。ほとんど放心に近いモモに対して、ここで赤兵衛が出し抜けに大笑いしました。

「ヒーッヒッヒッヒッ! やりおったわい! 赤鬼のやつらを、たおしおったぞ! ヒーッヒッヒッヒッヒッ!」

 モモもなんとか笑顔になりましたが、すぐに彼女は思い出したように言いました。

「ハッ! 小白丸と五色彦はっ?」

「ヒッヒッ! こっぴどくやられたが、二人とも大丈夫じゃ。小白丸は頑丈じゃし、五色彦は……」

 赤兵衛の言葉は途中でしたが、その時すでに、モモは二人の方にかけ出していました。


「フーッ……! けど、モモが無事で良かったぜ」

 五色彦が体を起こして言いました。彼と小白丸は傷だらけでしたが、二人とも致命傷はなく、なんとか動けるようでした。小白丸は地面から浮かび上がって言います。

「ほんとにな、モモ。あんなにぎりぎりになっても、自分のことより他のやつのことを優先するんだから」

 モモは困ったように笑いました。赤兵衛は鬼の槍に、杖のように寄りかかって言います。

「ヒッヒ……! おかげでまた、わしの寿命がのびたわい。……しかし、それにも増しておどろいたのは、五色彦じゃ。まさか火をふけるとはのう……!」

 五色彦自身も、なんと答えればいいのか分からない様子です。赤兵衛は彼をじっと見て言いました。

「……五色彦。おぬしはただの、やたらはでで生意気な、しゃべる生意気な雉ではなかったということじゃ。わしも気づかなかった。おそらくおぬしは……、朱雀の子なのじゃろう」

「「「朱雀……!」」」

 他の三人はあっけに取られて、おうむ返しに言いました。赤兵衛は言います。

「そう、朱雀じゃ。火をつかさどり、南方を守護するという大いなる鳥。妖怪どころか、神獣の一種じゃ」

 五色彦は声高に笑いました。

「アッハッハッハッ! へへっ……、だから言ったろ? おいらは妖怪でもねえし雉でもねえって! へッ! 今までばかにしてた連中はどこ行った? ええっ?」

 モモと小白丸は苦笑いです。赤兵衛は言いました。

「これ、調子に乗るでない。おぬしが朱雀なら、成長するのに何百年もかかるぞ。こんなに小さい今のおぬしは、まだまだ朱雀の赤ん坊といったところじゃ」

「う……! なにをぅっ! またばかにするつもりかっ?」

 五色彦が声を荒らげましたが、モモがなだめました。

「落ち着いて、五色彦っ。だれもあなたを、ばかになんてするわけないじゃない。あなたがいてくれなかったら、わたしたち、みんなこうして、生きていられなかったよ。ありがとう、五色彦。あなたのおかげ」

「う……。モモっ!」

 五色彦は感極まって、モモに飛びつきました。

「あっ、こいつっ!」

 小白丸が声を上げました。モモはとまどいながらも、五色彦の頭をなでてやります。赤兵衛は笑いました。

「ヒーッヒッヒッヒッ! やっぱり赤ん坊じゃわい!」

 モモも小白丸も、五色彦も笑いました。明け方の野に、四人の笑い声がひびきわたります。

 やがて一息ついたところで、モモは赤鬼たちがたおれ、すでにあとかたもなくなっている辺りの草むらを見て、つぶやくように言いました。

「……あの鬼たち……。わたしを……、ううん、人間を……、えものというより、憎い敵みたいに言ってた……。キラニ……、とかって……」

 すると少し間を置いて、赤兵衛が低い声で言いました。

「……キラニクルウォ……。ツチグモたちの使う、古い言葉じゃ。おそらく……、『森を壊す、悪しき者たち』……。そんな意味じゃろうな……」

 モモは言葉を失い、その心はたちまち暗くなりました。小白丸は声を落として言います。

「……森をめぐって、人間たちと争っていたのかな……」

「けどっ、前から盗賊やってたんだろ? 鬼になってからの仕打ちは言うまでもねえし」

 五色彦は歯がゆそうに言いました。険しい顔をしつつ、赤兵衛も言います。

「……さようじゃな。あわれなやつらじゃが、これもいたしかたないこと……。赤鬼になったままでいて、やつら自身が救われるわけでもあるまい……。坊主風に言えば、これでやつらも、成仏できるじゃろう」

 モモは辛そうな表情を浮かべたまま、だまって小さくうなづきました。

 やがて、四人が多少は気を取り直したと見えたところで、赤兵衛が言いました。

「さて、空は白み始めておる。町の人間にあやしまれぬよう、日の出前に宿屋にもどっておきたい。ぐずぐずしてはおられぬ」

 ここでモモは、前から気になっていた疑問を口にしました。

「ところでわたしたち……、ほとんどお金を持ってないんだけど……。その、宿代とかって……」

 すると赤兵衛は言いました。

「ヒヒッ。ま、なんとかなるじゃろ。今日はしばらく休んで、それからこの森で、鬼の住みかを探すのじゃ。金目の物が、何かしらあるじゃろうからな」

 五色彦はまゆをひそめて言います。

「けどそれって、もともと町の人のもんだろ? 町の人たちに返すのが筋ってもんじゃねえか?」

 赤兵衛はこう答えます。

「宿代をはらったら、残りは町の連中が発見できるように、うまく仕組めば良い。わしらのふところに入れるわけじゃあない。ま、ほとんどはな。ヒッヒッヒッ……!」

 モモはとりあえずなっとくすると、改めて表情をほころばせて言いました。

「なにはともあれ……、これで街道が使えるようになって、町の人の生活も良くなるよね……! みんな、喜んでくれるかなぁ……!」

 そんな彼女を見て、他の三人はにっこりと笑います。それからモモは、こんな風に思いました。

(……もし、これが落ち着いて、わたしを住みこみで働かせてくれるような所があったりしたら……。その時は、あの町で暮らしていくのも、いいかもしれない……。そうだ。赤兵衛たちには、空いたこの森で気ままに暮らしてもらって、時々会っておしゃべりしたり、また妖怪とか鬼とか海賊が出た時には、いっしょに退治するの。そうすればわたし……、お母さんとの約束を、守れる……。人を助けて、生きていける……!)


 そうして、四人は空の白み始める中、街道を歩いて、ふたたび町へともどりました。町には日が上る少し前に着き、モモたちはだれかに見られないように気をつけながら、自分たちが宿泊していることになっている、あの宿屋へと向かいました。

 モモたちの二階の部屋の窓から、出てきた時のまま、なわを垂らしてあります。そのなわに、まずモモが手をかけようとした、その時でした。赤兵衛が早口で言ったのです。

「しまったっ……! 小白丸、五色彦、かくれろっ……!」

 が、小白丸たちが反応する前に、別の声がこうさけびました。

「来たっ……! あいつらだっ! 化け物どもだっ!」

 それは、宿屋のあの小男でした。モモたちのいる宿屋の裏手に、宿屋の夫婦を初めとして、町の人たちが次々に出てきます。みんなおびえと怒りの混ざった表情をしていて、それは小白丸の体や赤兵衛の顔を目の当たりにすると、いっそう激しくなりました。

 モモたち四人は囲まれました。見れば人々は手に棒切れや金づちを持っていて、中には刀を持ったり、武装している人までいます。モモはうろたえるばかりで、仲間たちも歯を食いしばるしかありませんでした。

 ここで宿屋のやせたおかみがモモたちを指差し、とげとげしい声で言いました。

「まさか本当にっ……! なんておぞましいっ! あやしいと思ったんだ! この人に探らせて正解だった……! 『四人いる』とか言うから張りこんでみれば……! こいつらっ、人間の親子のふりをしてたんだ! 妖怪だっ! 妖怪だよっ!」

 モモは声をふるわせて言いました。

「ちがうっ……、ちがうんです……! わたしは妖怪じゃないっ……。この三人も、いい妖怪なんです……! みんなで、鬼をっ……!」

 しかし町の人たちは言いました。

「おおお……、鬼だけじゃなく、町の中に妖怪まで……! こんちくしょうっ……! 何もかも取られてたまるもんかっ!」

「そうだっ……! この町はっ、おれたちの町だっ! 人間の町だっ! 鬼は無理でも……、お前たちくらいっ、おれたちで追い出してやるっ!」

「そうだっ! おぞましい化け物めっ! さっさとうせろっ!」

 人々はどなり声を上げました。何人かが地面から石を拾って、モモたち目がけて投げつけました。

「ひっ……!」

 モモは身をすくませましたが、すぐに赤兵衛が周りに風を巻き起こして、石をはね返しました。小白丸はモモの前におどり出て、町の人たちに向かって大声でほえました。五色彦もその目を怒りで満たして、今にも火をふこうとしています。

「化け物……! 化け物っ!」

 町の人々はおびえながらも、一人一人がいっそうの熱に包まれました。一方で、モモは背筋が凍る思いです。その時でした。

 宿屋のおかみの体から、青い炎が上がったのです。すぐに周りの他の人たちからも、同じ青い炎が現れました。炎はおかみたちの体を包み、彼女たちはうめきながら、恐ろしいほどその顔をゆがめました。

「こりゃいかん……!」

 赤兵衛が言いました。

「モモ! 小白丸! 五色彦! すぐになわを上れっ!」

 モモたちは言われた通りにしました。二階に上がって、窓から改めて人々の方を見下ろしたモモは、そこで信じられない光景を目の当たりにしました。

 おかみを初めとする町の人々の体は青黒く変わり、その頭から、それぞれ何本かの角が生えていたのです。

 青い鬼、青鬼です。モモはうろたえながら言いました。

「こんな……。嘘、でしょ……? どうしてっ、どうして町の人が、鬼にっ……!」

 赤兵衛が、声を落として言いました。

「……青鬼じゃ……。赤鬼は、人々がだれかを恐れた時、その相手がなると言ったな。青鬼は、その逆……。人がだれかを異常なまでに恐れた時、恐れた者自身が、恐れに飲みこまれてなり変わるものなのじゃ……!」

 そのおそろしい変化はさけび声とともにしだいに周りに広がり、さわぎに気づいて出てきた他の人々も、恐怖の声を上げた直後に、同じ青い鬼に変わっていきました。さらには町のところどころから、恐怖と混乱に引き寄せられるように、黒い鬼、影鬼までもが姿を現し始めたのです。赤兵衛は顔を引きつらせてつぶやきました。

「恐れの連鎖が止まらぬ……。この町はもはや、鬼どものなわばり……、すなわち、シマとなった。要するに……。ヒッ……、鬼ケ島じゃ……!」

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