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電話を切った
「愛してるわ、
防音室内で、電話越しに呟いた言の葉をいまいちど口にしたあと、座っていたピアノの前の席から立ち上がり、足元に転がってるそれを軽く蹴る。
「風夏ってとても可愛いよね。ねぇ、あなたもそう思うでしょう」
ベッド下のカーペットの上には全身を芋虫のようにぐるぐる巻きに縛られた若い男が猿轡を噛まされたまま寝転がっている。彩夏は酷薄に笑いながら、毛布の下から般若の面を取りだし顔に当てた。
「あなたもさっきの話、聞いてたでしょ。私とあなた、ケチなところが似ているんですって。あなたと似ているなんて忌々しいかぎりではあるけど、風夏はそういうところが好きみたいだからどこまでだって我慢するわ」
そう言いつつ、彩夏は男を何度も踏みつける。苦悶の表情を浮かべたままの顔色の悪い男を、般若の面が静かに見下ろしていた。
「わかるかしら。あの娘はあなたごときが独り占めしていい娘じゃない。いいえ、誰だって独り占めにするなんて許せない。特に、あなたような男が愛を一心に受けるなんて、許し難いにも程がある」
しばらくの間、何度も男の腹を蹴りあげた彩夏は、やがて満足したのか、カーペットに足をしきりに押し付けたあと、鼻を抑えながら、部屋の扉を開ける。
「たまには喚起しないとね……っていうかそろそろ処分かしら」
そう言い捨ててから防音室を出ると、足早に自室へと戻る。そして、ベッドに身を横たえたあと、大きく溜め息を吐いた。
「癒しが欲しいわね」
おもむろにそう告げた彩夏は、部屋をぐるりと見回す。壁のそこかしこには、風夏の写真が貼ってある。幼い頃のものから今に至るまで、風夏単体のものもあれば、彩夏とのツーショットもある。しばらく、そんな写真一枚一枚を食い入るように眺めたあと、大きく伸びをした。
「さてと、今日も奪われたものを取り戻さないとね」
言うや否や手早くスマホを取りだした彩夏は、音声再生機能を押す。
『もしもし……』
可愛らしい少女の声に、彩夏はこれ以上にないほどの満面の笑みを浮かべて口を開いた。
「もしもし。マサキだけど」
TEL ムラサキハルカ @harukamurasaki
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