第7話 レーヴァの手伝いをした

「はーっ、美味しかったー!!」


俺は夜空の下でのびのびと背伸びをした。

本当に10年ぶりくらいに空腹から解放された気分だ。


美味しすぎて少し泣きそうになったレベルで幸せだった。異世界のご飯って味はしなかったけど、やっぱ串焼きはどの世界でも共通で美味しいものだな。


「人の金で食べるご飯はさぞかし美味しかったでしょうね。」


レーヴァがそんな嫌味を言いながら俺に続いて店から出てきた。

なんと、レーヴァはあの量の串焼きを涼しい顔で完食していた……。

大食いな種族なのかな。


「何も言い返せないな…。」


しかも、結構遠慮なく食べてしまったし。レーヴァの方が倍以上食べてたけどな。


「早速宿に行くわよ。」


レーヴァは俺の前を歩き出してゆく。


そういえば、宿代を払ってもらう代わりにレーヴァの手伝いをするんだった。

あんまり大変なやつじゃないといいけどな…。


1日前まで引きこもりだった訳だし、あまり肉体労働とかはできないぞ。


宿は思ってたよりかは小さめだった。


日本のホテルって感じではなく、よくファンタジーで冒険者達が旅の途中に泊まる宿にって感じだ。

内装はベット、机に椅子、トイレと洗面所と必要最低限って感じだが、野宿よりかは何百倍もいいだろう。


ちなみに、レーヴァと俺の部屋はもちろん別だ。同時に宿に行ったから部屋は隣同士だが。


「それじゃ、宿代も払ってあげたことだし手伝ってもらうわよ。」


宿の廊下の奥でレーヴァが腕を組み、振り向いた。


「先に言っておくが、あんまり厳しい肉体労働とかはできないぞ…。」


「そんなこと分かってるわよ。ただこれから魔王討伐に必要なことをしてもらうだけ。」


いや、そっちの方が重大なのでは!?

あと、俺も魔王倒したい…。魔王倒してチヤホヤされたい!!!


「早速手伝ってもらいたいから、私の部屋に来て。」


「お、おう……。」


宿とはいえ、仮にも女子の部屋ってなると緊張するな…。

そりゃ思春期男子なんだし、よっぽどの陽キャか鈍感男じゃないとドキドキするに決まってる。


地味に女子と部屋に2人きりっていう展開も初めてだしな…。


レーヴァに続いて部屋に入ると、もちろんそこは全く俺の部屋と同じ間取りの部屋だった。

けど、心無しかいい匂いがする……って、なんか俺キモくないか?


「はい、これ。」


レーヴァが俺の手に湿った何かを置いてきた。どうやら、濡れたタオルのようだ。


「なんで濡れたタオル……?」


もしかして、今から部屋を掃除しろとか言われるのだろうか。

めちゃくちゃ有り得る。女子って綺麗好きな気もするし。まぁ、そのくらいなら全然するけど…


「これで私の背中を拭いてほしいの。」


…………ん?


「明日魔王城に乗り込むのだし、当然戦うことも回避できない。

そのためには身体を綺麗にしておかなければ本領発揮できないのよ。」


___なんだそりゃ!!

別に背中くらい汚くても戦えるだろ! あと、

ついさっき出会った男に自分の背中を吹かせるとかおかしくないか…。

女同士ならまだしも、俺は男だぞ。


俺の不満そうなオーラに気づいたのか、レーヴァはこんなことを言ってきた。


「しょうがないじゃない。知り合いなんていないんだし。あと、あなたなら弱いから何かしようとしても半殺しにできるしね。」


今、しれっと怖いこと言ったな。半殺しなのはまだ優しい方かもしれないけど…。


「レーヴァって綺麗好きなのか…?」


「そうよ。特に、自分の身体は常に清潔でないと気が済まないわ。」


さっき戦う時に本領発揮できないとか言ってたけど、そんなになのか…。

俺の場合、1週間風呂入ってないとかもザラにあったけどな。


「もう説明はいいでしょう。とっとと拭きなさい。」


「……あ、ああ…。」


レーヴァはそう言うと、自らの服を捲り、その白い背中を露わにさせた。


__その瞬間、俺はごくりと唾を飲み込んだ。


……ヤバい、こんなの反則だろってレベルでドキドキする!女子の背中ってこんな感じなのか…。

白くて華奢だな。それになんかエロくないか…?


「言っておくけど、少しでも変な目で見たらその瞬間目を潰すわよ。」


俺の思考を読むようにレーヴァが物騒なことを言ってくる。


「……分かってるって。」


こんな背中見せられて、変な目で見ない方がおかしいだろ!

健全な高校生男子は誰しもこうなるわ!!


レーヴァの白い背中にタオルを当て、優しく吹いてゆく。


タオル越しに伝わる感覚がなんかすごい……うん。

生々しいというかなんというか…。


「ちょっと、息が荒いわよ。気持ち悪い。」


「酷い言われようだな!!」


男とはすぐ興奮する生き物なのだ(個人の感想です)。女子と2人きりで密室、それも女子の生背中__ここまできて興奮しない男がどこにいる!


「ちゃんと隅々まで磨いてよ。」


「分かってるって…。」


なんか磨くって言い方おかしくないか……?

鉄か何かでもあるまいし。


その後しばらく背中を拭いた俺はレーヴァの背中から手を離した。


「ほら、こんなもんでいいだろ。」


「ええ、ありがとう。これで心置きなく挑めるわ。」


……それにしても、手伝いがこんなこととは…。異世界初日から内容が濃い!

というか、今までの俺の人生が薄すぎた説もある。最近は引きこもってゲーム三昧だったしな。


「………あなた。」


振り返って俺の方を見たレーヴァが眉をひそめた。


「ん? 顔に何かついて__って、いっだああああ!!!」


額の衝撃に、俺は思わず涙目になって額を抑えた。


「顔が赤いわよ。さては興奮してたでしょう。」


痛みの原因はレーヴァが俺にデコピンをしてきたからだ。

デコピンといっても可愛いものではなく、ムキムキマッチョの男にされたくらい痛いやつだ。


「マジで痛い!!絶対頭蓋骨にヒビ入ったんだけど!?!」


「そのつもりでやったから。」


冷たい!!そして容赦ない!!

いくら美少女でも泣きそうだぞ。ドMじゃないんだよ俺は……。


「要件は済んだことだし、さっさと帰りなさい。今日は早めに休みたいのよ。」


「……はい。」


俺はヒリヒリする額を撫でながらレーヴァの部屋を出たのだった。

本当に今日は厄日だったな…。

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