第6話 エルロタル村に来た
馬車に揺られること数十分。
俺達は魔王城から1番近いらしいエルロタル村に着いた。
そこは質素な町だったが、ちゃんと空の色も普通だし、少ないけど村人もいる。
あの森よりかは何百倍もいいだろう。
「エルロタル村は魔王城から近いから人があまり来なくて繁栄していないのよ。
来ると言ったら魔王を倒すとか言ってる調子に乗った自称伝説のパーティだけね。」
おい、しれっと数々のパーティをバカにするな。
まぁ、まだ魔王が健在してるってことは挑んだヤツらは全員返り討ちにされたってことになるけど…。
「ちょっといいか?」
そう、大切なことがある。人間誰しも欠かせないもの。そして今の俺にはとっっても必要なもの。
そう、それは__
「腹が減った!!!」
今の俺はとてつもなく腹が減っている。1度考えてみてほしい。
ただの引きこもりが一日中何も飲まず食わずで暑苦しい森の中をさ迷ってみろ、普通は死ぬレベルだろ?
そう、俺はぶっちゃけ腹が減りすぎて死にかけている。
「そうね、それに関しては私も同意よ。」
……なんだと!? あのツンデレのツンの部分だけ切り取ったようなレーヴァが初めて俺のことを肯定(?)してくれただと!!
なんか嬉しい!!そこら辺で勝手に飢え死んどきなさいとか言われるのかと思ってた!!
「確か、ここは 「本格串焼き エルロタル」という名前のお店が良かったはずよ。」
レーヴァが正面入口から見て左奥の方を指さした。
おそらくその辺りにお店があるのだろう。
「串焼き!!それは良さそうだな。 レーヴァは前もここに来たことがあるのか?」
「……まぁね。」
あまり追求はしてほしくなさそうなので、一応それ以上は聞かないでおいた。
それにしても、レーヴァは一体何者なんだろうな。なぜあんな森の奥にいたんだろう。
それに、常人離れした力の持ち主だしな。
そんなことを考えていると、村の左奥にある串焼きの店に着いた。
……うん、なんか年季がすごいというか…。ボロいというか…。
「…ここ、年季がすごいな…。」
「ええ。多少年季は入ってるけど気にしないで。」
レーヴァは店の外見がボロいことも気にせずに中に入っていった。
俺だけ入らない訳にもいかないので、俺も困惑しながらレーヴァの後に続いた。
「いらっしゃい。お客さんが来てくれるとは有難いねぇ。」
俺達を出迎えたのは、店の中で編み物をしていたおばあちゃんだった。どうやらここの店の店主らしい。
店を見渡してもそのおばあちゃん1人しかいなかったので、どうやら1人で経営してるらしい。
「レーヴァ、本当に大丈夫なのか…?」
レーヴァにそう耳打ちすると、レーヴァは真っ直ぐ前を見たまま答えた。
「心配性ね。まだ食べてもないのに判断するのは早いわよ。」
まぁ、確かにそうか…。というか、地味に初異世界料理じゃん。どんなのか楽しみだな。
レーヴァと共に席に座り、メニューを見ると意外とたくさんの種類があった。
「豚バラの肉巻き40本と餅30本でお願いします。」
「いや、注文する数エグすぎる!!」
俺は思わずそうツッコんだ。合計70本だぞ。1人で女の子がそんなに食べれるのか!?
「ほっといてよ。どうせこの店も私の奢りなわけだし。あんまりうるさいと奢らないわよ。」
……うぐっ、無一文だと見抜かれてやがる。中々勘が鋭いな…。
ここはレーヴァの優しさに甘えるしかないのか。
「分かったって。じゃあ、俺は豚タン20本とレバー5本で…。」
俺も25本と結構食べてるはずなのに、レーヴァの70本と比べたらなんか霞むな…。
「分かりました。ちょっと待っててねぇ。」
店主のおばあちゃんは俺達の前に水の入ったコップを置くと、店の奥に消えていった。
「………ぷはっ、うまぁ…!!!」
俺はすかさず水を一気に飲んだ。うまい、うますぎる。かれこれ1日は何も飲んでなかったからな。
死ぬかと思った……。
「それにしても、あなたどこから来たの?
黒髪黒目ってのは私も初めて見たわ。」
料理を待ってる間暇なのか、レーヴァがそんな質問をしてきた。
日本って言っても通じないしな……。うーん、どうしたものか。
まぁ、適当に言っとくか。
「遠くの田舎の小さな村だよ。」
そう言うと、レーヴァは不思議そうな顔で俺の顔をまじまじと見た。
「はぁ? あなたみたいな弱そうな人間が1人でこんな魔王城の近くの森まで来たの?」
「いや、だから家の階段から落ちて気づいたらここにいたんだって。」
これは嘘のような事実だ。転生のことはどうせ信じて貰えないから最初から言わないけど。
「……はぁ、あなたは相当な馬鹿のようね。」
何回も言うけど毒舌だな!! 事実を話しただけなのに、俺が悪いみたいになってるぞ!
「もうこの話はいいわ。」
勝手に呆れられて勝手に話を切られた…。
マイペースだな! 人のこと言えないけど!!
「それより、あなたこれからどうするの。野宿するの?」
……確かに、もう夜だしな。それに宿に泊まる金もないし……完全に詰んだ!!
「……まぁ、野宿かな。」
野宿なんかしたことないけど。まぁ、この際我慢するしかない。
明日になったら即ギルドに行って生計を立てなければ。
「それなら、いい案があるわ。私の手伝いをしてくれるなら今夜は宿代を出してあげる。」
「本当か!?!」
俺は思わず勢いよく立ち上がった。
レーヴァって、こう見えて意外と優しいのかもしれない……。 これこそツンデレだ!!
「本当よ。あなたさえよければ詳細はこの後話すわ。」
「もちろんいいに決まってるだろ! ありがとう、レーヴァ!!」
本当によかった。やっぱり、今日は疲れたし、異世界初日くらい宿で休みたいしな。
もうレーヴァに足を向けて寝られないな。
フォグの森で迷ってたのを助けてくれたし、モンスターを倒してもらったし、エルロタル村に案内してくれたし、飲食店代も奢ってもらったし…。
いや、本当にいろいろしてもらってるな…。
レーヴァに会えなかったら今頃森で野垂れ死んでいただろう。恐ろしい。
「はい、お待ちどうさん。」
ちょうど話が途切れたところで、店主のおばあちゃんが大量の串焼きをワゴンに並べて持ってきた。
「2人とも育ち盛りだから、たんとお食べなさいねぇ。」
いや、レーヴァは育ち盛りにしても食べすぎだけどな。大食い選手権に出られるのではないか。
「はい、ありがとうございます。」
レーヴァは串焼きを並べるのを手伝いながら礼を言った。
しょうがない、俺も手伝うか。
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