第4話 幼馴染みの部屋で勉強しない。
「ちょっとトイレ」
「んー」
「鴫野」
「んー?」
「私以外に誰もいない家の私の部屋でひとりになったからって、物色とかしちゃ駄目よ」
「しないし」
「いい、絶対に物色しちゃ、駄目だからね」
「しないって」
「絶対によ?絶対にっ。物色するなよー!物色するなよー!」
「いやもう何かの振り!?」
「! ちょっと、鴫野!私が居なくても部屋を物色しないって言ったじゃない!」
「えっ!?物色なんてしてないけど」
「いいえ、分かるわよ、バレているわよっ。ホント、軽蔑に値するわね」
「ほんと、身に覚えないんだけど」
「鴫野の手に持ってるのが何よりも証拠の物証よ」
「これ?ただの単行本だけど」
「どこで見つけたのよ!?」
「そこの本棚だけど。いや、いつも勝手に読んでるやん。そこらへんにあるの勝手に取ったりしてるし」
「そうでした。もぅ、盛り上がらないわねー」
「いや何がしたいんだよ」
「せっかく部屋から居なくなったんだから、これ見よかしに物色して、引き出しから下着でも出してクンクンくらいしてみなさいよ。いつもみたいに」
「いつもどころかしたこともないし!」
「もしかして、洗った下着には興味がないの!?」
「興味が云々の話じゃないからね!」
「ごめんなさい、履いている下着を直ににおいを嗅がれるのは、幼馴染みでも許容しかねるの…」
「嗅ぐわけないからねー!」
「履いている下着を見せることくらいならできるんだけれど…」
「幼馴染みでも履いてる下着を見せることには躊躇をしろ」
「せっかく男女二人きりの勉強会プレイをしているのに物色のひとつも、下着のひとつもクンクンしないなんて。こんなチャンス、滅多にないんだよ?」
「滅多にはないけど、まだチャンスはあるってこと!?今回限りのイメージプレイじゃないの!?それに勉強会プレイじゃなくて本当に勉強会をしき来たんだよ」
「勉強会をしなくても、私は大丈夫だけど?」
「オレは大丈夫じゃないから!今日は勉強を教えてもらう目的で来てるんだからね!」
「勉強会の名目で女子の部屋に来たのに、ソワソワしない男子に教えるものは何もありません」
「あ、口元に白いの、もしかしてクリームじゃない?スイーツ的なもの食べてきたな」
「さっきリビングに行った時に」
「通りで!なんか変なキャラになってる筈だよ。甘いものを食べた樟葉っていつもこんなんだもんな。あ、オレの分は!?いや、オレの分とかそんなんないけど」
「勉強の途中でお茶する時に食べるケーキは、用意してあるわよ」
「勉強する気あるじゃん。勉強しよーよ」
「・・・・・・・・」
「なに?スカートの方ばかり見て。やっぱり見たいの?スカートの中」
「いや違うから」
「でも嗅ぐのは…」
「だから違うし」
「えっ、もしかして、太もも?」
「いやそっち!?」
「胸や下着以外で女性の魅力に惹かれるようになったなんて、鴫野も男としての格が上がったわけね」
「太ももに惹かれるとかフェチやん。格が上がったというより、マニアックな癖が増して格が下がってるような気しかしないんだけど」
「でも、太ももといっても、ダイレクトににおいを嗅がれるのは」
「嗅がないし!ちゅーか、癖にも目覚めてないし!樟葉の足の向こうの、棚の中にあるヤツ!」
「あっち?…ああ、これのこと?」
「それそれ。やっぱし!VRゴーグルなんじゃ!?」
「そうよ。先週買ってみたの」
「そうなん!?樟葉もネトゲとかしてるけどさ、
そういうのにも興味があったんだ」
「うん。でも飼った目的は、ゲームというより、メタバース?」
「メ、メタバース!!?」
「メタバースをしてみようかな~って、買ってみたの」
「まさか樟葉の口からメタバースなんて言葉が出てくるなんて」
「でもまだしてないんだけどね。ゲームをしているくらい?」
「そうなんだー。でも、凄いなー樟葉…」
「そうだ。VR、体験してみる?」
「やってみたい!」
「そう?鴫野にとっておきなものが、あるのよ…」
「どう、ちゃんと装着できてる?」
「大丈夫っぽいかな」
「じゃあ、始めるわよ」
「ーーーーーーわっ!なに?レールが伸びてるんだけど。電車のゲームのやつ…ではないなこれ?」
「それはね。ジェットコースターのシミュレーターよ」
「ジェットコースター!ちょっと待って!ストップストップ!」
「あっ、こらっ。外しちゃだめだよ。壊れちゃうかもしれないじゃない」
「えっ、外しただけで壊れるの!?」
繊細な精密機械だもん。予期せぬ壊れ方をしかねないもの」
「ちゅーかさ、その前に、オレが絶叫系ダメだっていうの知ってるだろー!」
「知っているわよ」
「悪魔ー!」
「体験するって決めたんだから、最後まで体験しなさい。男の子でしょ」
「そんなぁ」
「あと、目を閉じてもだめだよ?機械が誤作動を起こして壊れちゃうかもしれないから」
「えー!!」
「壊したら修理代5万だからね」
「えーーー!!!」
「はい、発車しまーす。スタート~」
「心の準備っていうのあっ!あっ!動いた!動いてる!本当に動いてる!怖い!怖い!」
「まだ登ってる段階でしょ?」
「怖い!ゆっくり動いてるけどもう怖い!あっ、あっ、あっ…………あああああーーーーーーーーーーーーーーーーー!」
「凄いでしょー?」
「怖いー!マジ速ーっ!はーっ!あーっ!あ!あ!あ!あーーーーー!」
「はははははは」
「座ってるのに身体が揺れるー!安定しないー!怖いー!なんか、なんか掴まらせてー!」
「はははははっ。ほら、右手で私の腕を掴んで」
「はー!はー!ダメだー!遠心力ー!振り飛ばされるよー!」
「ちゃんと腕を掴んでるんだから振り飛ばされないわよ。安心して。私も腕を掴んであげてるから」
「うわー!安定しないー!揺れるー!揺れるー!」
「あんっ!ちょ…左手で押しつけてるの…胸…」
「傾くー!回るー!ぐるぐる回ってるー!ひー!」
「…もぅ、しょうがないわね」
「はー…凄すぎた……もぅ、リアルがリアル過ぎて怖過ぎなんだけど。あんな映像ならプレイさせないでよ~」
「ごめんね。あんなに怖がるなんて思わなかったんだもの」
「はぁ…。だけどVRって、半端ないなぁ…」
「他にもゲームがあるんだけど?」
「えっ、ホント!?いや、もうジェットコースター的な絶叫アトラクション系は勘弁なんだけど」
「ふふ。これは普通のガンシューティング。やってみる?」
「やります!」
「えっ、もうこんな時間!?勉強、全然してないんだけどー!!」
「夢中になりすぎちゃったしねー」
「勉強、できなかった…」
「ケーキがあるけど、食べて帰る?」
「…いただきますっ」
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